ぷかぷか日記

「不安の正体」上映会

  • 素の自分で立つ
     看護学校で授業をやってきました。精神看護学という15時間ある授業の一コマで「障害者が地域で暮らしていく」というテーマで話をしてきました。  こんなテキスト使っていました。            前半は『Secret of Pukapuka』を上映し、就労支援という障がいのある人達の日中活動の場について簡単に話をしました。就労支援といいながらも、ぷかぷかはどちらかといえば彼らに支援されることが多いです。彼らがいなければ、何の面白みもないただのパン屋であり、お惣菜屋です。  彼らがいるからこそ、日々いろんなおもしろいことが起こり、おもしろいものが生まれます。映画『Secret of Pukapuka』もそこから生まれました。いっしょに生きることの価値がよく見えます。  後半は映画「不安の正体」を手がかりに、ここでは何が問題か、どうすればいいのかを自分で考えてもらいました。自分がケアしている当事者の方が、親から自立してグループホームに入ろうとします。ところがグループホーム建設反対運動が起こっていて、建設がストップしてしまいました。精神障害者が来ると、地域の安全が保てない、と。精神障害の人への偏見が露骨に出ています。  当事者の方は困ってしまって、あなたのところに相談に来ました。どんな言葉をかけますか?何をしますか?という問題を出しました。受講したのは80名。前から奇数列の人が後ろを向き、4人ずつのグループを作って話し合ってもらいました。  こういう問題は多分教科書を見ても答えはありません。自分で考えるしかありません。みんなでああでもないこうでもない、と話し合っていました。なかなか答えが見つからなくて困った人達もいました。地域の人達が持っている偏見とどう向き合うのかを真剣に話し合ったグループもありました、地域の掃除をしたらいい、と素晴らしい意見を言った人もいました。  学生さんたちは医療従事者として精神障害の人の前に立ちます。そのための勉強をしています。でも社会に出れば、今回のように教科書にないことがいっぱい出てきます。そうすると医療従事者として精神障害の人の前に立てません。医療知識を取っ払った素の自分で立つしかありません。悩んで悩んで悩み抜くこと、困って困って困り切ること。その時ようやく当事者の方の悩み、痛みを自分のこととして考えられる気がします。人に寄り添う、というのはそういうことだと思います。ほんとうのケアがここから始まります。
  • 心と体を開く
     先日「不安の正体」の上映会をやりました。精神障害の人達との直接のおつきあいのないところでの偏見、先入観が「不安の正体」なのですが、それを解消するにはお互いの出会いの機会を作る、一緒に楽しいことをするのがいちばんだと思います。ところが実際にそういうことをやろうとすると、また別の問題があることがわかりました。当事者の方が地域の人たちといっしょに楽しいことをやることをあまり望んでいない、というのです。          区役所で精神障害の人達の定期的な集まりがあるから娘さん(当事者です)もよかったらどうぞ、とその案内のチラシをもらったのですが、娘はちらっと見て無言でパス。チラシを見ると中身があんまりおもしろくないのですね。楽しそうな企画が全くなく、よくある映画鑑賞とか音楽鑑賞とかで、娘がパスするのも、ま、しょうがないなという感じ。  で、区役所まで、もうちょっとみんなが楽しめるものにした方がいいんじゃないですか、と提案しに行きました。 「なかなかむつかしいですね」 「お試しに私に一回任せませんか?地域の人が見ても、あ、おもしろそう、ちょっと行ってみようかなって思えるような企画をしますよ」 「当事者の人達は自分の障がいを人に知られたくないと思っているので、内輪だけの集まりです。」 「自分の障がいを人に知られたくないという気持ちはわかりますが、障がいを含めての自分というものを考えた時、障がいを隠す、というのは自分の一部を隠すことであり、自分に正直に生きられないというか、生きることが辛くなる感じがします。障がいを含めての自分を、もっと堂々と生きていった方がいいような気がします。話しやすい雰囲気を作り、まず自分を語ることをやりましょう。日々辛いこと、楽しみにしていることなど、いろいろ語りましょう。内輪の集まりでそれに慣れたら、今度は話をわかってくれる人を呼んで、その人の前で自分を語る、というのをやってみましょう。ワークショップはそういったことがやりやすい雰囲気を作ります」 「そうですか、では少し検討させて下さい。」  この場をオープンにするのはかなりガードが堅いですが、その日の打ち合わせの感じでは、少し可能性が見えた気がします。時間がかかりそうですが、とにかくおもしろい企画を提案し、みんなが集まりを楽しみにしてくれるようになれば、状況は変わってくると思います。  たとえばこんな詩をみんなで朗読するワークショップもやってみようかなと思っています。長田弘さんの詩です。一人で黙って読むのではなく、誰かに向かって声を出して朗読します。  自分の手で、自分の  一日をつかむ。  新鮮な一日をつかむんだ。  スのはいっていない一日だ。  手に持ってゆったりと重い   いい大根のような一日がいい。  それから、確かな包丁で  一日をざっくりと厚く切るんだ。  日の皮はくるりと剥いて、  面とりをして、そして一日の  見えない部分に隠し刃をする。  火通りをよくしてやるんだ。  そうして、深い鍋に放りこむ。  底に夢を敷いておいて、  冷たい水をかぶるくらい差して、  弱火でコトコト煮込んでゆく。  自分の一日をやわらかに  静かに熱く煮込んでゆくんだ。  こころさむい時代だからなあ。  自分の手で、自分の  一日をふろふきにして  熱く香ばしくして食べたいんだ。  熱い器でゆず味噌で  ふうふういって。  誰かに向かって声を出して朗読すると、詩がムクムクと生き始めます。心が元気になります。そういったことをいろんな人達と共有します。そんなワークショップをやっていく中で当事者の人達の心と体が自由になるといいなと思っています。そんな中で地域の人達とも出会ってもらえれば、生きる世界がぐんと広がります。  朗読を通して自分を語る、表現する。そこから新しい世界が始まります。
  • 「病む」っていったい何なんだ、という気がして
    「破片のきらめき」という映画を見ました。精神科の病院に作られたアトリエに集まる人たちの創作活動を撮った映画です。 www.youtube.com  精神障害を抱えた人は、生きる上での苦労が絶えません。その苦労故に、磨かれた人生。彼らの生きている世界の深さみたいなものを感じました。  私はこんな風に必死になって生きて来なかったし、さしたる苦労もなくやってきました。だからなのかどうか、丁寧に自分の人生を生きる彼らを見ていると、「病む」っていったい何なんだ、という気がしてきます。  「ぼくの気持ちは暗いんだよ」などといいながら、この青年は調子を崩して入院してしまった仲間を主人公にした絵本(なんと40ページ!)を一晩で書き上げ、入院先の病院に届けます。苦しさの中で格闘したからこそ、今苦しんでいる仲間の苦しみが、自分のことのようにわかるのでしょう。仲間への思いを込めた絵本には、彼の優しさが詰まっています。  そんな彼らの世界に触れ、心がふっとやわらかくなりました。  「精神障害者」などという言葉で彼らのことを語るのは、ものすごく失礼に当たる、とこの映画を見るとつくづく思います。  あんな素敵な人達を「精神障害者」だからと地域社会から排除してしまう社会の貧しさを思いました。社会が痩せこけていくように思いました。 『破片のきらめき』のDVD、タカサキが持っていますので、興味のある方は連絡下さい。takasaki@pukapuka.or.jp この映画のDVDもあります。興味のある方は連絡下さい。  
  • 「ここにグループホームができてよかったね」 って地域の人たちにいってもらうには
    「不安の正体」の上映会を5月7日(土)午後1時半からみどりアートパークのリハーサル室でおこないます。 midori-artpark.jp  映画見終わって 「う〜ん、大変だなぁ」 とため息ついておしまいにするのではなく、 「ここにグループホームができてよかったね」 って地域の人たちにいってもらうにはどうしたらいいんだろう、といった前向きの話がみんなでできないかなと思っています。  地域でいい関係を作っていくのはどうしたらいいのか、みなさんのアイデアが必要です。毎月第1土曜日と第3土曜日の午前中はみんなで街の掃除をして回ろうとか、月一回はみんなでおいしいものを作って食べて、おしゃべりしようとか、おもしろい映画を上映しようとか、花見に出かけようとか、様々な形で地域の人たちとのおつきあいを作ることが大事だと思います。  それと情報発信ですね。グループホームはどんな人が集まっていて、どんなことをやっているかの情報発信です。ぷかぷかも設立当初、様々なバッシングがありました。呼び込みの声がうるさいの、同じところを行ったり来たりされると目障りでメシがまずくなるのと散々でした。そんな中でやったことはぷかぷかにはどんな人が働きに来ていて、何をやっているのか、ということを伝える情報発信です。ネット上の発信と紙媒体(ぷかぷかしんぶん)の発信でした。       ぷかぷかしんぶん最新号        ぷかぷかしんぶんは毎月手分けしてポスティングしました。大きな団地なので、どこを曲がっても同じような建物が並んでいて、最初の頃は迷ったりする人が続出しました。そんなとき、地域の方からこんな電話が入りました。  「ぷかぷかさんが迷子になってますよ。見ててあげるから迎えに来て下さい」  うれしかったですね。ぷかぷかしんぶんに書いた思いがちゃんと届いていたんだと思いました。お店にはまだ行ってないけど、しんぶんはいつも読んでますよ、っていってくれる方もいました。A5版6ページの小さなしんぶんです。それでもこうやって地域の人たちとぷかぷかを結びつけてくれました。  上映会のアンケートに 「ぷかぷかは街の価値を上げている」 と書いてくれた方もいました。 「ぷかぷかさんが好き!」 というファンも方もたくさんできました。  「この街にぷかぷかができてよかったね」 って思う人がたくさんできたのです。  「この街にグループホームができてよかったね」 って地域の人が言ってくれるようになることは決して夢物語ではないのです。  彼らといっしょにいい一日を作り続けること、それを地域に向けて発信し続けること。そのことが大事だと思います。  上映会のチラシです。
  • 反対さん
    精神障害の人たちのグループホームの建設に反対する人たちに焦点を当てたドキュメンタリー映画『不安の正体』の上映会をします。    映画は先日東京で見たのですが、グループホーム建設の説明会で「こんな人たちが来れば治安が悪くなる」「子どもたちの安全を守れるのか」「地価が下がる」などの怒号が飛び交い、娘が精神障害の当事者である私にとってはほんとうにこたえました。相手のことをよく知った上での抗議ではなく、偏見、思い込みの上に立った怒号です。  単なる偏見、思い込みであっても、それは当事者、関係者を傷つけ、苦しめます。だから  「反対派はけしからん」 と、つい私たちは思っています。そんな感じで私自身もグルーホーム建設反対運動について何本かブログを書いてきました。そのブログを読んだ方のメールにこんな言葉がありました。 「反対さんも、それはそれで生きにくいんじゃないのかなと思います。」  ほんとうにその通りだと思います。相手と会って、ちゃんとおつきあいすれば、 「なんだ、自分と変わらないじゃん」 となるのですが、知らないことで不安が増幅し、自分を苦しめます。生きることがどこか不自由になります。  そんな人たちを「反対さん」と表現するところがいいと思いました。「反対派」ではなく、「反対さん」。  なんかね、とがった心が丸くなる感じがしました。そうやって相手を見ていくことが、私たちの側にも必要だと思いました。  偏見、思い込み故に「反対さん」の心もとがっています。その心を丸くするにはどうしたらいいのか。それが今回の上映会のテーマです。   昨日「ぷかぷかさんお昼ごはん」(ぷかぷかの食堂)の入り口にあったメニューです。なんか見ただけで、キュンとあたたかな気持ちになりました。一瞬にして相手の気持ちをやわらかくしてしまう。これがぷかぷかさんのチカラです。まねできないです。     こういうセンスで「反対さん」たちに、とがった心が丸くなるようなメッセージを届けたいと思うのです。   5月7日(土)横浜線長津田駅前の「みどりアートパーク」のリハーサル室です。時間は午後1時〜4時です。監督の飯田基晴さんも参加します。  部屋が60人と狭いので、参加希望の方は高崎まで連絡下さい。045−453−8511(ぷかぷか事務所)ですが、いないことが多いので、takasaki@pukapuka.or.jpにメール下さい。参加費は800円です。
  • 彼らと作り出す豊かな日々を地域に差し出す
     昨日「不安の正体」の上映会に行ってきました。精神障害の人たちのグループホーム建設を巡って地域で反対運動が起こりました。その記録映画です。 www.lowposi.com  グループホームの説明会会場に飛び交う怒号は、ほんとうに聞くに堪えないものでした。こんなふうにして障がいのある人を地域から閉め出すと、快適な地域社会が実現するのだろうか。その問いを怒号を発する人たちは自分に向けて欲しいと思います。  社会の貧しさをひしひしと感じる怒号でした。その怒号とどう向き合えばいいのか。それを超える言葉を私たちはどうやって紡ぎ出せばいいのか。  「障害者差別解消法」で、住民に対する説明、住民の合意は必要なくなった、と弁護士の方はおっしゃってましたが、といって反対住民がそれで納得するとは思えません。じゃぁ、どうすればいいのか。上映後のトークイベントで、そのあたりの掘り下げがなかったのはとても残念でした。  ぷかぷかは「障害者差別はイカン!」とか「障害者差別をなくそう」みたいなことは言ったことがありません。そういう思いはあっても、もう少し違う方法で、障害者差別のまん延する社会を変えていこうと思っています。  ぷかぷかが一番大事にしていることは「ぷかぷかさんたちといっしょにいい一日を作る」ということです。そうすることで生まれる豊かさこそが社会を変えていくと考えているからです。実際、その豊かさに気づく人が少しずつ増え、ぷかぷかのまわりの社会はずいぶん変わりました。つい先日の金曜日にはそういった人たちがぷかぷかの話を聞く講演会を開いてくれました。ホームページアクセス数は100万を超えます。  彼らと作り出す豊かな日々は、あのやまゆり園事件を超える社会をどうやって作っていくのか、といったことにもつながってきます。事件を批判するだけでは社会は変わらないのです。  たまたま上映会の日の午後、オペラシアターこんにゃく座のオペラ「あん」を見に行きました。 www.konnyakuza.com  物語の舞台となったどら焼き屋であんこ作りの得意なおばあさんが働くことになります。あんこがおいしくて行列のできるお店になります。ところがおばあさんは昔ハンセン病を患い、指が曲がっていました。その噂が広まり、客足は途絶えます。  その深刻な差別の問題に作品はどう向き合ったのか。  おばあさんの生きた世界の豊かさを差し出すのです。そうやってハンセン病の差別を超えようとしたのだと思います。豊かさを歌い上げる歌には、ちょっと涙がこぼれました。  グループホームの話に戻ります。  グループホームができれば、地域でいろんな新しいおつきあいが生まれます。精神障害の人ってこんな人たちだったんだ、っていう出会いもあります。出会いは、人間の幅を広げます。それが地域社会を豊かにしていきます。  そういったことをグループホームを運営する側がきちんと語っていく、発信していく、出会いの場、機会を積極的に作っていく、そういったことが大事ではないかと思います。そういうことの積み重ねが、映画の中のあの「怒号」を超えていく社会を作っていくのだと思います。 ★5月7日(土)午後1時半よりみどりアートパークのリハーサル室で上映会をやります。問い合わせはNPO法人ぷかぷかの高崎まで。takasaki@pukapuka.or.jp
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