小さな「ともに生きる社会」がここにできつつあります。(相模原障害者殺傷事件5年目に思うこと−③)
5年前の事件直後、神奈川県障害支援課から 「防犯設備を設置する場合はお金を出します」 といった趣旨のメールが何度も来ました。神奈川県の事件検証委員会の報告書に防犯上の問題が事件の原因であるようなことが書いてあったためだと思われます。報告書はやまゆり園自体の問題には一切ふれていなくて、問題をすり替えた、といった感じがしました。やまゆり園の責任とその監督庁である神奈川県の責任を伏せたというか、強力な力が働いた、という印象。誰が、何を、なぜ隠そうとしたのか。 当時、新聞に「福祉事業所がさすまたを手に防犯訓練をおこなった」ことが、「さぁ、これに続け」といった感じで記事になったことがありました。え?こんなことが記事になるの?とすごく嫌な思いをしたことがありますが、社会全般にそんな雰囲気があったように思います。あの事件は防犯上の問題だったのだ、と。 そういうのはおかしいと思っていたし、そもそもぷかぷかは障害のある人たちと地域の人たちの出会いの場としてお店を作ったので、地域に対して壁を高くするようなことは一切しませんでした。「ともに生きる社会かながわ憲章」などというものを掲げながら、一方では地域との壁を高くすることにはお金を出す、というのですから本当にめちゃくちゃです。 お店は事件の前はもちろん、事件後も変わりなくオープンであたたかな雰囲気でした。帰りの会に地域の人たちが参加することも度々ありました。気がつくと地域の子どもがぷかぷかさんたちの間に挟まって騒いでいたこともありましたが、それが当たり前、という雰囲気。赤ちゃんを抱っこしたお母さんが帰りの会に参加したこともありました。たまたま赤ちゃんの1歳の誕生日だったので、ぷかぷかさんたちみんなでハッピーバースデーの歌を歌いました。そばにいたお父さん、思いもよらないハッピーバースデーの歌のプレゼントに感激して涙を流していましたね。そんな地域の人たちとのおつきあいが事件後も変わりなく続いていました。 昨年5月に開所した生活支援事業所「でんぱた」も、地域とのつながりを大事にしています。畑仕事を時々地域の人たちと一緒にやるのです。 7月15日にNHKニュースウオッチ9で、その「でんぱた」を1年間取材したまとめが放映されました。 田植え、稲刈りは地域の人たちがたくさん手伝いに来てくれました。 こうやって彼らとおつきあいした地域の人たちの言葉がすごくいいですね。 事件の犯人が、障害のある人たちとこういうおつきあいをしていれば、事件は起きなかったと思うのです。どうしてこういう当たり前のふつうのおつきあいができなかったのでしょう。「支援」という上から目線の関係は、相手と人としておつきあいすることを排除してしまうのでしょうか?この問題は、裁判でも問われることはありませんでした。すごくまずいなと思っています。「支援」の現場で、また同じような事件が起こりかねないからです。 「でんぱた」もすべてが順風満帆ではありません。彼らの大声がうるさいと苦情が来たり、「でんぱたしんぶん」を持っていっても、素直に受け取ってくれない方もいたようです。 ま、でもこういう声としっかり向き合うことが大事だと思います。どうしてこういう声が出てくるのか、どういう社会的な背景があるのか、社会の何が問題なのか、それに対して私たちは何をすべきなのか、何ができるのか。それを考えて考えて考え抜くこと。そういったことが私たちを磨きます。 こういう問題に特効薬はありません。地道に地域で関係を広げていくことと、彼らの魅力を様々な形で発信していくこと、そしてそれをとにかく続けていくこと、それしかないように思います。 ぷかぷかさんたちのこと好きになった人が少しずつ増えているのですから、ここには希望があります。 小さな「ともに生きる社会」「共生社会」がここにできつつあります。 そして何よりも「生活支援事業所」の、新しい可能性が見えます。生活支援事業所が利用者さんの生活はもちろん、地域社会そのものを豊かに変えていこうとしています。