2月9日(土)、大雪の予報が出る中、福岡まで行ってきました。
空港に着いても、雪は降ってなかったので、
「ラッキー!」
と思ったのですが、肝心な飛行機は「天候調査中」で、飛ぶのかどうかはっきりしません。そのうち「除雪のため大幅に遅れます」のアナウンス。慌ててその旨、福岡に電話。前日に、遅れた場合はこうやって下さい、とメールをしておいたのですが、なんとも落ち着きません。
定刻の40分遅れで、搭乗手続きが始まりました。これならなんとか間に合う、と喜んだものの、機内に入ってから、
「翼の上に雪が着かないように薬をまきます。ほかの飛行機もみんなこの作業をするので、しばらくお待ち下さい」
のアナウンス。しばらくして
「右方向を見て下さい。今、翼の上に薬をまいています。これが終われば出発します」と機長ののんびりしたアナウンス。当たり前ですが、機長は全く焦ってないのですね。
ようやく薬まきが終わって、滑走路まで移動したものの、今度は離陸の順番待ち。
結局離陸したのは定刻より1時間半遅れ。なんとか上映会にはギリギリ間に合いそうで、ホッとしました。
ま、でも、このハラハラする旅は、ほんとに楽しいですね。この緊張感がなんとも言えないです。
福岡に着いてからは地下鉄で行く予定だったのですが、途中乗り換えがあったりしてややこしいので、タクシーで来るように主催者の大場さんからメール。昨年7月の虫の家での上映会のあと、電車を乗り間違えて予約していた飛行機に乗れなかったことをよく覚えていて、乗り換えがあったりすると迷子になると思ったようでした。
早速タクシーを捕まえ、12時ちょうどくらいに会場着。パソコン、スピーカーをバックから出して大慌てで上映の準備。最初に詩の朗読をするので、前の方にあった椅子は全部かたづけてもらいました。
映像、音の確認をしてから、近くのラーメン屋で大場さんと一緒に食事と打ち合わせ。
福岡高教組障害児教育部会主催で予定では50人くらい集まりそう、とあったのですが、なかなか人が集まってきません。20人くらいでしたが、1時半開始。10人ずつぐらいのグループに分け、谷川俊太郎の詩『うんこ』を朗読しました。一人1行ずつ読んでいきます。
もう一つのグループの人たちに向かって読みます。ほとんどの人は初めての体験だったので、すごく楽しかったのではないかと思います。「詩の朗読」というたったそれだけのことで、人は、ふっと解放されます。自由になります。人に向かって声を出す、言葉に丁寧にふれる、そのことが日常から人をふっと解き放つのだと思います。
そうやって心と体を、ふだんより、ちょっとだけ自由にしたところで映画を見てもらいました。そんな風にして見た方が、ぷかぷかの自由な雰囲気がよく伝わると思ったからです。理屈っぽい話ではなく、ぷかぷかの自由な空気感をそのまま感じ取ってほしいと思いました。
大場さんとトークセッション。
「養護学校時代、子どもたちとの関係で、何を一番大事にしましたか?」
といういきなり直球の質問。何を大事にしたか、なんてことまじめに考えたことがなかったのですが、強いていえば、何かを教えるというよりも、子どもたちと一緒に楽しい時間を過ごすことを大事にしましたね。こんな話をしました。以前ブログにも書いた話です。
クラスのみんなで大きな犬を紙粘土で作ったときのことです。小学部の6年生です。何日もかかって作り上げ、ようやく完成という頃、けんちゃんにちょっと質問してみました。
「ところでけんちゃん、今、みんなでつくっているこれは、なんだっけ」
「あのね、あのね、あの……あのね…、え〜と、あのね…」
と、一生懸命考えていました。なかなか答えが出てきません。
「うん、さぁよく見て、これはなんだっけ」
と、大きな犬をけんちゃんの前に差し出しました。けんちゃんはそれを見て更に一生懸命考え、
「そうだ、わかった!」
と、もう飛び上がらんばかりの顔つきで、
「おさかな!」
と、思いっきり大きな声で答えたのでした。
一瞬カクッときましたが、なんともいえないおかしさがワァ〜ンと体中を駆け巡り、思わず
「カンカンカン、あたりぃ! 座布団5枚!」
って、大きな声で叫んだのでした。
それを聞いて
「やった!」
と言わんばかりのけんちゃんの嬉しそうな顔。こっちまで幸せになってしまうような笑顔。こういう人とはいっしょに生きていった方が絶対トク!、と理屈抜きに思いました。
もちろんその時、
「けんちゃん。これはおさかなではありません。犬です。いいですか、犬ですよ。よく覚えておいてくださいね。い、ぬ、です。わかりましたか?」
と、正しい答をけんちゃんに教える方法もあったでしょう。むしろこっちの方が一般的であり、正しいと思います。まじめな、指導に熱心な教員なら多分こうしたと思います。
でも、けんちゃんのあのときの答は、そういう正しい世界を、もう超えてしまっているように思いました。あの時、あの場をガサッとゆすった「おさかな!」という言葉は、正しい答よりもはるかに光っています。
あのときの私の反応は、頭でいろいろ考えての反応ではなく、反射的に
「カンカンカン、あたりぃ!」
なんていっていたのです。そのときに、大事にしたいものが決まった気がします。
「子どもたちと一緒に楽しい時間を作っていこう」
って。何かを教えることも大事ですが、それ以上に、そのときそのときを子どもたちと一緒に楽しく生きよう、と思いました。
文化祭の時、不自由な体育館の舞台はやめ、プレイルームで子どもたちだけでなく、お父さん、お母さん、スクールバスの運転手や添乗員さんたちも巻きこんで「芝居小屋」をやったのも、みんなで楽しくやろう、という思いがあったからです。
三ツ境養護学校で1年かけて小学部から高等部まで全校生を巻きこんだ芝居作りをやったのも、とにかくみんなで楽しいことをやろうって思ったからです。全校生を何か指導しよう、なんて考えていたら、みんなついてきませんでした。
「あ、こいつについて行くと、なんかすごく楽しい」
って、みんな思ったから、ついてきてくれたのだと思います。1年間集中を途切らせずに全校生を引っ張っていくのはすごく大変でしたが、その大変さが僕にはすごく楽しかったのです。
そんな楽しい話をいっぱいしました。学校は昔に比べ、自由な雰囲気がどんどんなくなっています。その雰囲気に負けることなく、子どもたちと楽しいことをやり続けて下さい、といった話です。気がつくと午後4時までほとんど一人でしゃべりまくっていました。
参加した人たちからこんな感想が上がってきました。
・とてもあたたかい気持ちになる時間を過ごすことができました。
・現場の中でおもしろいこと、楽しいことを発想できる人間になりたいと思います。楽しいお話をありがとうございました。
・アイデアをたくさん思いつくような豊かな人生を送ることが大切だと思いました。
・ぷかぷかさんと一緒に生き、そこからいろんなものを生み出すことは、豊かな社会を作っていくことにつながる、という話が印象的でした。
・今日の話を聞いて、今まで損をしていたなと思いました。これからはもっともっと学校で楽しみたいと思いました。いろんなヒントをもらえたと思います。ありがとうございました
・詩を朗読するワークショップ、楽しかったです。
・話を聞いて楽しくなりました。心が耕されたのでしょうか。
・私もフラットな関係を築きたいです。楽しいことを考えたいです。
・子どもたちが毎日笑顔で過ごせるような関わりを持ちたいと思います。
・筑後にもぷかぷかさんのようなあたたかい事業所があればいいなと思いました。
・全部お話を聞いて、映画も見て、だんだんぷかぷかさんのことがわかってきました。
・障害者は単純作業が向いている、というのは違うと思っていましたが、今日お話を聞いて、やはりそうだと思い、気持ちが晴れました。
・若手の教員とも組んで、できるだけ楽しんで日々過ごしていますが、周りからの視線が厳しく(「楽してる」「ちゃんとやっていない」など)、その若手教員に、本来そんなもんじゃない、みたいな忠告がいっぱい入って来てて、彼女が困っていました。「仕事を楽しくやることは大事だよ」と私も言っていたのですが、今日の話を聞いて、あらためて確信を持って、伝えられると思いました。もっともっといろんなおもしろいことを一緒にやりたいなと思います。
最後の感想は、今の学校の様子が目に浮かびます。私がいろいろやっていた頃もそんな人はいっぱいいました。自分がやりたいことをやりきれていないことの裏返しですね。それが若い人への攻撃になってしまうのは、なんとも情けないのですが、まぁ、どこでもあることです。そういったことにめげることなく、とにかく楽しいことを子どもたちと一緒にやり続けることだと思います。子どもたちが一緒に楽しんでいる、という事実をとにかく積み上げること、それは大きな力になります。元々つまらない攻撃には中身がありません。相手にする価値もありません。こんな教員の言いなりになっていると、子どもたちにとっては全然おもしろくない、つまらない学校になります。ですからもうそんなのはほっておいて、黙々と楽しいことをやり続けるのです。
大場さんとトークセッションするはずだったのですが、ついつい話に力が入り、ほとんど一人でしゃべってしまいました。みんなすごく集中して聞いてくれました。ありがとうございました。
帰りの飛行機は、雪で欠航になった飛行機の影響で、飛行機のやりくりが夜になっても大混乱状態で、搭乗口も3回変更になり、出発は80分遅れ。最後はバスで飛行機まで運ばれてやっと搭乗するような状態。家に帰ったのは12時でした。ま、でも、最後までハラハラする楽しい旅でした。