NPOは社会的な課題を解決するために設立され、その課題解決に向かって様々な取り組みをします。ぷかぷかは「障がいのある人たちの社会的生きにくさ」という社会的課題の解決のために、街の中に彼らの働くパン屋、カフェ、お惣菜屋、アートショップを作りました。でも、街の中に彼らの働くお店を作るだけでは、課題解決にはなりません。
お客さんにお店に来てもらい、そこで働く障がいのある人たちといい出会いをしてもらうことが大事です。いい出会いの中で、「ああ、この人たちとはいっしょに生きていった方がいいね」って思ってもらえることが、社会的課題の解決の一歩だと考えています。
そのお客さんにどうやって来てもらうか、そこが商売としてやる上でむつかしいところです。ただパンを焼いてるだけ、カフェをやっているだけではお客さんはなかなか増えません。やはりお客さんが来てみたくなるような、魅力ある物語、ここにしかない「価値」を作り出すことが求められます。
その「価値」をどうやって作り出すか、を考えたくて、NPOが生み出す「価値」について考えるセミナーに参加して来ました。
おもしろいなと思ったのは、《「価値創造」の進化》という表でした。左から右へ行くほど「価値」あるいは「価格」が増す横軸と、下から上へ行くほど「差別化」が大きくなる縦軸で表現される「価値」の評価基準です。「価値」という漠然としたものを、二つの軸でわかりやすく評価していこうというものです。『価値創造』がどのように進化していくのかが見えてきます。
その表で、いちばん左下は「コモディティ」といわれるもの。「差別化」においても「価値」においてもいちばん低い位置にあります。使えさえすればメーカーは問わない日用品のようなものです。代替可能なものです。
その次のランクはものの価値だけにとどまっているもの。ものを作れば売れた時代の価値観にとどまっているものです。この価値は、さわれるもの、目に見えるものです。
三番目のランクはものの価値にお客さんへのサービスが加わったもの。お客さんのニーズをしっかりつかみ、それを商品に生かしたものです。この価値は、さわれないもの、目に見えないものです。
四番目はお客さんの「経験」が「価値」となるようなもの。お店に来たときの忘れがたい「経験」が「価値」を生みます。
五番目はお客さんの「変化の経験」が「価値」となるようなもの。経験によって自分が変化した、成長したことが実感できるようなこと。かけがえのない体験こそが生み出すかけがえのない「価値」。
《「価値創造」の進化》という表の意味を学んだあと、さてあなたの団体はこの表の中のどの段階の「価値」を作り出していますか?という問いを考える時間がありました。
ぷかぷかはパン、カフェの食事、お惣菜、アート商品を作っています。ものを作っていますが、ものの価値だけにとどまらず、目には見えないたくさんの思いをこめてお客さんに提供しています。
パン、食事、お惣菜は、お客さんが安心して食べられる、おいしいものを作っています。何を食べても添加物でいっぱいの世の中にあって、「お客さんが安心して食べられる」というコンセプトは、ただそれだけですばらしい「価値」があります。お客さんがいちばん求めているものだからです。そこには私たちの命への思いがあります。あなたの命、子どもの命を傷つけたくない、健康な命を未来に引き継いでいきたい、という思いです。食べ物は命を育むもの、だからこそ、安心、安全を大事にしたいと思っています。こういった思いはお客さんにまっすぐに届きます。
ものの価値だけにとどまらす、お客さんのニーズにしっかり応えている、という意味で、ぷかぷかの商品は三番目のランクに位置します。ものの価値の上に、目に見えない「価値」がそこには加わっています。
ぷかぷかは障がいのある人たちが、楽しい雰囲気で働いています。見学に来た方の多くが「ここは明るいですね」と感心するくらいみんな楽しそうに働いています。そんなぷかぷかのあたたかな、ほっこりした空気感にふれ、心を癒やされ、「ぷかぷかが好き」になってしまったり、「ぷかぷかのファン」になってしまった方がたくさんいます。
先日「日経イニシアチブ大賞」にエントリーしたときは、障がいのある人たちのありのままの姿が、今までにない新しい価値を生み出している、といったことを書きました。セミナーの話で修正するなら、障がいのある人たちのありのままの姿に出会ったお客さんが、心あたたまる「経験をした」ということが「価値」を生み出した、ことになります。「価値創造」は「顧客経験」という形で実現されるというわけです。
ぷかぷか全体のほっこりあたたかな雰囲気を肌で感じたお客さんたちが「ぷかぷかのファン」になっている現状を考えると、ぷかぷかが作り出しているものの「価値」は、第四段階にあると言えます。
「価値」の軸においても「差別化」の軸においても一番上のランクに位置するものは「変化の経験」だとありました。「人間回復と自己再創造」とも書いてありました。新しい「経験」によって、自分が変化し、成長したことを「経験」する、「実感」すること、それが新しい「価値創造」だと。
え〜、それって「演劇ワークショップ」で作り出しているものじゃん、とセミナーを受けながら思いました。
ぷかぷかのお店では、障がいのある人たちに出会うという「経験」が新しい「価値」を生み出しています。それ自体、自分の人間としての幅が広がるわけですから、「変化の経験」ではあるのですが、演劇ワークショップは、その「変化の経験」の幅が格段に広がります。それは障がいのある人たちと一緒にクリエイティブな活動をし、一緒に苦しい思いをしたり、びっくりするような新しい発見をしたりするからです。
演劇ワークショップは、お店での単なる出会いから先へ進んで、クリエイティブな関係を作り、その中で新しい芝居(一緒に生きていった方がいい、という理由が具体的な形で明確に見える)を作り出したいと思って始めたものです。
演劇ワークショップで作り出したものの「価値」は、想定していたもの以上の「価値」を作り出していたことに、セミナーの中で気がつきました。これはちょっとびっくりでした。「人間回復と自己再創造」という言葉が第五段階の「価値」には書いてありましたが、ワークショップに参加した人たちの感想を読むと、本当にその通りだと思います。
NPO法人ぷかぷかが設立当初に掲げた「障がいのある人たちの社会的生きにくさ」の解消、という目標は、社会の中で「人間回復と自己再創造」という、人間の深いところでの変わりようがあって、ようやく実現できるのだと思います。社会というのはそうやって少しずついい方向へ変わっていくのだと思います。
ワークショップが生み出す「価値」