8月20日(土)、第三期目の「みんなでワークショップ」がスタートしました。第一期目は『森は生きている』、第二期目は『みんなの生きる』をテーマにしました。そして今期は『セロ弾きのゴーシュ』がテーマ、というか、それを元に芝居を作っていきます。
ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係です。「みんなより遅れる」「みんなと合わない」「表情がない」「とけたひもを引きずったような演奏」と楽長にしかられてばかりいます。ゴーシュは一人残って壁に向かって涙をこぼしながら練習します。
そんなゴーシュのところへ毎晩動物たちがやってきます。ネコ、カッコウ、タヌキ、ネズミです。最初は無愛想ですが、それでもゴーシュは彼らのためにセロを弾きます。セロを弾きながら動物たちとのいろんなやりとりがあります。
ゴーシュは毎晩必死になって練習し、そのためにうまくはなるのですが、この動物たちとのやりとりこそが、ゴーシュを成長させます。
その成長がいちばん見えるのが、演奏会の日、「第六交響曲」が大成功し、アンコールの中でゴーシュがたった一人でセロを演奏する場面です。ゴーシュは動物たちがやってきた夜のことを思い出し、すばらしい演奏をします。
オペラシアターこんにゃく座のオペラ『セロ弾きのゴーシュ』には、ゴーシュの成長ぶりがすばらしい音楽で表現されていて、ここは何度聞いてもぞくぞくするほどの場面になっています。
ここを芝居の形で表現できないか、というのか、今回のワークショップのテーマです。
ゴーシュは楽長をはじめ、みんなからいろいろ馬鹿にされるのですが、「みんなより遅れても」「みんなと合わなくても」「表情がなくても」「とけたひもを引きずってても」そんなだめなことがいっぱいあっても、「それでもゴーシュはいた方がいい」といえるようなものを動物たちとゴーシュのやりとりの中で見つけ、それを芝居に形にすることができないだろうか、と思うのです。
それはゴーシュと同じような理由で社会的疎外を受けているぷかぷかのメンバーさんたちからの大事なメッセージになります。「それでも社会にはゴーシュのような人間はいた方がいい」というメッセージ。彼らと一緒にワークショップをやれば、多分それは見つかるのではないかと思うのです。
相模原障害者殺傷事件の容疑者は「障害者は生きていても意味がない」などというめちゃくちゃなことを言っていますが、「それはちがう」ということを私たちは言い続ける必要があると思っています。それば容疑者だけでなく、社会全体が障がいのある人たちをまだまだほんとうに受け入れていないと考えるからです。出生前診断で染色体異常が確定した妊婦のうち94%が人工妊娠中絶を選択した、という現状は社会全体が障がいのある人たちをどんな風に受け止めているかをよく物語っています。
言葉で「それはちがう」というだけでなく、そのことを語る具体的な事実を作っていくことがなによりも大事だと考えています。「支援」などという、どこか他人事の、上から目線の関わりではなく、あくまで彼らの側に立ち、彼らと一緒に豊かなものを作り続けることです。「ぷかぷか」はそのことを地域の中でやってきました。そしてワークショップはまさに彼らと一緒に豊かな文化を創り出すものです。
話をワークショップに戻します。
第三期第一回目のワークショップの報告です。
コミュニケーションゲームの最後に、自分で身につけているものも使ってグループごとに、どこがいちばん長くできるかのゲームをしました。靴や靴下ハンカチ、タオルなども動員して、みんな必死になって腕や足を伸ばして挑戦しました。この必死になる感じがすごくよかったですね。適当にゲームを楽しむのではなく、必死になってゲームをやるとき、人は皮がちょっとだけむけて、ちょっとだけ自由になれます。こんな体験を積み重ねていって、ワークショップはあたらしいものを創り出すことができるのです。
コミュニケーションゲームのあと、オペラシアターこんにゃく座のオペラ『セロ弾きのゴーシュ』のDVDを見ました。原作は30年ほど前に初演され、今回見たDVDは10年前に上演されたときのもので、演出も歌役者もかなり変わっていましたが、それでもこんにゃく座のオペラってほんとうに楽しいとしみじみ思える作品でした。みんな集中して見てくれたので『セロ弾きのゴーシュ』がどういうお話かは十分伝わった気がしました。(DVD見たい方、高崎までメールください。お貸ししますよ。『セロ弾きのゴーシュ』という作品がこんにゃく座の手にかかってオペラになると10倍くらい楽しくなる、ということがよくわかります。pukapuka@ked.biglobe.ne.jp)
オペラ『セロ弾きのゴーシュ』でゴーシュが家(といっても川端にあるこわれた水車小屋)に帰って夜セロを練習するときに歌う歌「ふをめくりながら」と、タヌキが登場する場面で歌われる歌「てぃーちでぃーる」を練習しました。
♪ 譜をめくりながら 弾いては考え、考えては弾き…♪
これは左手でチェロを持ち、右手で弦を持って弾くようにして歌うと、とても気分の出る歌です。養護学校で『セロ弾きのゴーシュ』をやったときは、これを真っ先に練習しました。
二曲ともピアニストのあみちゃんが一回歌っただけですぐにみんな歌えるようになり、その吸収力にちょっとびっくりでした。
午後はあみちゃんの紹介でオーケストラで演奏しているチェロ奏者江原さんがチェロの生演奏をしてくれました。そのときの雰囲気をちょっとだけ楽しんで下さい。
「白鳥」
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流れ星の音まで入った「上を向いて歩こう」。江原さんによるすばらしいアレンジ曲。
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「ザッツ エンターテイメント」
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なんとも贅沢な時間でした。
演奏の終わったあとはチェロやチェロを弾く指を触らせてもらいました。
『セロ弾きのゴーシュ』の発表会(来年1月29日)でもスケジュールが合えば来てもらえるかも知れません。
チェロの生演奏を聴いたあと、みんなでゴーシュの家を訪ねるいろんな動物になったり、ゴーシュに何を頼むかを考えたりしました。
なぜかイグアナが登場
そのイグアナグル−プがゴーシュの役をやり、そこへほかのグループが
「最近眠られないんです。どうしたらいいですか?」
と訪ねてきました。期せずしてツジさんが
「チャン、チャララララン…」
と「禁じられた遊び」を口ずさみ、眠られなくて困っていたグループの人たちが眠ってしまう、という即興の芝居ができました。
イグアナグル−プに入っていたチェロの演奏者江原さんは
「およそ生産性には興味のないまったりグループの中でどうなることかと思いましたが、禁じられた遊びが飛び出してきたときは、ほんとうにびっくりしました。すごい可能性のある人たちですね」
とおっしゃっていました。
こういう反応を積み重ねていくと、今までにない面白い『セロ弾きのゴーシュ』ができあがるのではないかと思います。
発表会は来年1月29日(日)の午後、みどりアートパークホールでおこなわれる『表現の市場』でおこないます。ひょっとしたら本物のチェロの演奏が聴けるかも知れません。