ぷかぷか日記

「ったくしょうがねえなぁ」といいつつ寄り添ってしまう

おむすび味噌というおいしいお味噌があります。 かつては『おむすび長屋』というところで作っていました。(今は社会福祉法人になっています)

 

 

 おむすび長屋は、山間の廃屋を借りて障がいのある人たちといっしょに味噌を造りながら暮らしを立てていました。その話が昔私が養護学校の教員だった頃新聞に載り、「あ、なんだかおもしろそう」って、さっそくおむすび長屋を訪ねました。

 信州の小諸からかなり山奥に入ったところにある茅葺きの昔ながらの家で、なんだかホッとする雰囲気でした。コーイチローさんという障がいのあるおもしろいおじさんがいて、

「ボーナスでたら、スナック行って、ジュース飲むんだよ」

とうれしそうに語ってくれたことが未だに印象に残っています。ああ、こんな幸せがあるんだ、ってしみじみ思いましたね。

 おんぼろの廃屋ではありましたが、障がいのある人と一緒に暮らす見るからにあたたかな「暮らし」がそこにはありました。年に一度「ボーナス出たら、スナック行って、ジュース飲むんだよ」コーイチローさんがうきうきしながら語るような、ささやかな楽しみもありました。

 今のように福祉の制度も十分に整っていない時代でしたから、障がいのある人たちといっしょに暮らしを立てていくことは、よほどの「志」がないとできないことでした。強い「志」がないとできない事業であれば、次の若い世代に引き継げないと、その後、社会福祉法人になり、福祉事業所とグループホームになりました。

 建物は建て替えられましたが、「暮らし」のあたたかさがグループホームにはありました。そのグループホームにも「個別支援計画」なる指導体制の確立が求められ、

 《地域で働き、地域で暮らす「場」が、次第に「トレーニング施設」へと様変わりしてゆくように思われます。》

 と、「おむすび通信」におむすび長屋の主・田中さんが嘆いていました。「個別支援計画」の本質を突いています。

 《人のにおいのぷんぷんする連中に、色々面倒くさいことが起こっても、「ったくしょうがねぇなあ」といいつつ、寄り添う》田中さんたちの姿勢が好きでした。そういう姿勢だったからこそ、そこでの「暮らし」「仕事」には「あたたかさ」がありました。

 そんなところへ「個別支援計画」が入り込んだのです。事業をやっていく上で福祉サービスの報酬をもらう以上、やむを得ないこととはいえ、「個別支援計画」で描かれる彼らとの関係は、彼らに寄り添う、という人間くさい姿勢からはほど遠い関係になっています。

 彼らに寄り添いながら、丁寧に暮らしと仕事を作ってきた田中さんたちにとっては、全く理解しがたい制度だろうと思います。福祉の世界がどういう方向を向いているかがよくわかります。

 

 それでも尚、彼らとのあたたかなおつきあいこそ大事にしたいと私は思うのです。いっしょに生きていく、というのは、「ったくしょうがねぇなあ」といいつつ、今日もまた寄り添ってしまうような、そんなおつきあいであり、生き方ですから。

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