昔養護学校で文化祭期間中、プレイルームを占拠して『芝居小屋』というみんながハチャメチャに自由になれる場所を作ったことがあります。それまで文化祭の舞台でチマチマと芝居をやっていましたが、なんとも盛り上がりに欠けていました。
夏休みに出かけたフィリピンで、役者もお客さんも一緒になって芝居を作り出すような、そんな場に出くわし、いたく感動。これはぜひ学校でやりたいと思って作ったのが『芝居小屋』。これは芝居をやる人、見る人、というふうに分けないで、みんなで一緒になって芝居を楽しむ熱い空間を作り出そうという試みでした。
最初にやった芝居は『かいぞくジェイクがゴンゴンすすむ』。気合いを込めたせいか、すごいタイトルに。たまたま『かいぞく太っちょジェイク』という絵本があり、それを元に作った芝居です。
お客さんといっしょにその場で作る、なんて私自身やったことがなく、ドキドキしながらのスタートでした。
海賊のお話なので、舞台は海。模造紙を30枚くらいつないで、フィンガーペインティングで海の絵を描きました。その細長い海の絵を『芝居小屋』の壁をぐるっと一回りするように貼り付けました。部屋の真ん中に座ってぐるっと見回すと、もうそれだけで海の真ん中にいる気分。耳を澄ますと「ザザザザ〜ン、ザザザザ〜ン」と波の音が聞こえてきそう。お客さんにその気になってもらうには、こういう仕掛けがすごく大事。
海の雰囲気がいっぱいの中でまずはお客さんに波になってもらいました。
「ザザザザ〜ン、ザザザザ〜ン」「ザザザザ〜ン、ザザザザ〜ン」
お客さんの体が気持ちよさそうに揺れます。何度も何度も繰り返します。波が大きくなったり、小さくなったり。それにあわせて声も体の動きも変わります。
「ザザザザ ザブ〜ン!」「ザザザザ ザブ〜ン!!」「ザザザザ ザブ〜ン!!!」
と、声も体の動きも大きくなって、大きな波がやってきます。
「陽はサンサンと照り、海はきらきらとまぶしい…」とか何とかいいながら
「あっ! トビウオ! 」
と叫びます。お客さんの誰かを指さし
「はい、あなた、トビウオです。ピョ〜ンと飛びます。」
「さあ、いいですか。せ〜の、ピョ〜ン」
というと、お客さんはほんとうにピョ〜ンと飛んでしまうのです。そういう雰囲気が「芝居小屋」にはあったのです。
「あっ、今度はイルカだ!」
っていうと、イルカになって飛ぶ人がいました。
そんな中、海賊船がゴンゴンと登場し、お芝居が始まります。波や魚をやったお客さんは体もあたたまり、芝居への集中力が違います。途中、風が吹いてくると、お客さんは風になり、嵐になり、雷になります。
「ビュ〜ン」「ビユ〜ン」
「ピカピカッ!」「ぴか!」
「ゴロゴロ!」「ゴロゴロゴロ」「ドッカ〜ン!」
なんとこの芝居40分もあって、役者もお客さんもくったくた、汗びっしょりになって楽しんだのでした。私自身は半年分をいっぺんに生きた気がしました。
どうやったら場が動くのか、を体で知ることができた貴重な体験でした。これが元で、数年後には体育館のフロアを舞台にして、全校生で芝居をやったのでした。
この時の話は『街角のパフォーマンス』という本に載っています。
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