芥川賞受賞の『ハンチバック』に〈東京国立博物館にやってきたモナ・リザに赤いスプレーを引っ掛けようとした彼女には、少なからず共感する〉とあり、1974年に起こった「モナ・リザ・スプレー事件」を取り上げています。
東京国立博物館で開かれた「モナ・リザ展」で、過度な混雑が予想されたため、主催者によって「入場制限」が設けられていました。介助を必要とする障害者や高齢者、付き添いのいない小学生未満の子ども、乳幼児連れの人(実質的には幼児のいる母親)の来場が、あらかじめ「お断り」されていました。それに抗議して「身障者を締め出すな」と叫んでスプレーを噴射した人がいました。スプレーを噴射したのはポリオの後遺症で装具を付け、右足を引き摺っていた人です。
その場で逮捕され、後日裁判で罰金3000円が課せられました。肝心の『モナ・リザ』は防弾ガラスに保護されていたため被害はなかったそうです。
当時の文化人を含む世間一般の男たちの反応は、「自分の容姿を評価してもらえない嫉妬から、美人の象徴とされるモナ・リザに八つ当たりしたのだろう」などというものだったそうです。『暮しの手帖』編集長花森安治は、この女性が〈モナリザにこだわりすぎている〉と述べ、漫画家の手塚治は〈とにかく嫉妬からか〉と記したそうですが、当時の社会状況がよく見えます。
「障害者を排除している社会に抗議する彼女の行動を「犯罪」とする社会とは、一体何なのだろうか」と作家の橋本愛さんは書いています。
「『モナ・リザ』スプレー事件」とは単なる「悪戯」だったのか。裁かれる「犯罪」だったのか。裁かれるべきは、本当にあの女性だったのか。事件を突飛なエピソードとしてのみ消費し、真っ正面から受け止めなかったこの国は、この社会とは、一体何なのか…と二松學社大学准教授の荒井裕樹さんは書いています。
事件が起こったのは約50年前です。でも50年たって、障害者を排除しない社会になったのでしょうか?つい先日も、バスの中で楽しそうに独り言を言っていた浅川そらくんに「うるせー!降りろ!」と怒鳴りつけたおじさんがいました。幸いヒーローの登場でその場は収まったのですが、ヒーローが登場しなければ、そらくんもお母さんもとても辛い思いをしたと思います。
障害者は自分らしく生きるよりも、社会にあわせることを求められます。ありのままの障害者を認めない、ということです。バスの中は静かにしろ、と。どう頑張っても社会にあわせられない障害者もいます。そらくんを見ればわかります。
事件から50年たっても、障害者は自分らしく生きられないままです。彼らが自分らしく生きられない社会は、私たち自身も自分らしく生きられない社会です。
そんな中で私たちに何ができるんだろうかを話し合う集まりをやります。どうやったら彼らを排除しない社会ができるんだろうか、そんなことを話し合います。ぜひお越し下さい。
日時 9月24日(日)9時30分〜12時
場所 みどりアートパークリハーサル室
やること 映画「そらくんとたからくん」の上映
ゲスト 浅川そらくん、たからくん、お母さん
参加費:800円 (小中学生、高校生、ぷかぷかさんは無料)
問い合わせ、参加申し込みは高崎まで takasaki@pukapuka.or.jp