法律で義務付けられた障害者雇用を巡り、企業に貸農園などの働く場を提供し、就労を希望する障害者も紹介して雇用を事実上代行するビジネスが急増している、という話が新聞に載っていました。十数事業者が各地の計85カ所で事業を展開。利用企業は全国で約800社、働く障害者は約5千人に上るといいます。
要するに障がいのある人を雇うのは何かと面倒、お金払って障がい者雇用率が達成できるなら、そっちの方が楽、と考える企業が多いのだと思います。雇用率をお金を出して買ってる、ということです。
農園で働く障がいのある人はきちんと給料をもらい(給料の原資は雇用率を買っている企業が払っています)、企業の側は帳簿上雇用率を達しているのだから何も問題はないように見えるのですが、どうもすっきりしません。
彼等が作った野菜などは販売しません。お金を出した企業が引き取って、従業員に配るそうです。従業員にとっては、ただでおいしい野菜が手に入り、とても喜んでいるそうですが、野菜を作った障がいのある人達の喜びにはつながりません。
自分たちの作った野菜が売れること、その野菜を食べた人達が喜んでくれること。そのことが野菜作りを仕事とする彼等の喜びになります。そういう仕事の基本的な喜びが、代行ビジネスで働く障がいのある人達からは奪われています。
そもそもどうしてこんなビジネスが流行っているのか。やはり厚生労働省がどうして障害者雇用をするのか、という基本的なところを丁寧に説明していないからだと思います。
厚生労働省のホームページでは障害者雇用について以下のように説明しています。
《障害者等が希望や能力、適性を十分に活かし、障害の特性等に応じて活躍することが普通の社会、障害者と共に働くことが当たり前の社会を目指し、障害者雇用対策を進めています。
障害者の雇用対策としては、障害者雇用促進法において、企業に対して、雇用する労働者の2.3%に相当する障害者を雇用することを義務付けています(障害者雇用率制度)。
これを満たさない企業からは納付金を徴収しており、この納付金をもとに雇用義務数より多く障害者を雇用する企業に対して調整金を支払ったり、障害者を雇用するために必要な施設設備費等に助成したりしています(障害者雇用納付金制度)。》
障がいのある人達のことを全く知らない企業が、この程度の言葉で障害者雇用に向けて動き出すとは思えません。
企業の側が「うちも障害者雇用をやってみようかな」と思えるような、もっともっと丁寧な言葉が必要です。そもそも厚生労働省自身は障害者雇用をやっているのでしょうか?それをやっていないから他人事のような言葉が並び、今回の代行ビジネスがはびこるような事態を生み出しているのではないでしょうか。
障がいのある人達を雇用すれば、いろんな面倒なことが起きます。仕事の指示がうまく伝わらないとか、時間までに仕事が終わらないとか…。でもその面倒なことを巡って、ではどうすればいいのかを現場の人達が必死になって考えること、悩み抜くこと、そういったことが現場を鍛え、豊かにしていきます。
時には発想を変えることも必要です。発想を変えることで思っても見ない世界が広がることもあります。新しい価値がそこから生まれます。
以前こんなキリンの絵を描いたぷかぷかさんがいました。
「え?これがキリン?」
と思う人が多いと思うのですが、
「こんなキリンもいたっていいか」
って思えると、なんか少し楽になります。自分の中のキリンのイメージが自由になるからです。自分の中のキリンが自由になると、私たち自身、生きることが少し楽になります。
このキリン、足が2本背中に生えているようですが、キリンの自信あふれるような顔は
「それがどうなの?」
という感じです。こうやって堂々と生きていきたいと、私はキリンを見ながら思いましたね。
彼等といっしょに生きていると、こういった思ってもみない気づきがたくさんあります。私たちの発想とは全く違うものに出会います。そういったことこそが社会を豊かにしていくように思うのです。
「障害者雇用」というのは、そういったことに気づくチャンスだと思うのです。