映画『梅切らぬバカ』にグループホームに反対する人たちが出てくる場面があります。
「どうしてこんな住宅街にグループホームなんか建てたんだよ」「昨日の夜もうるさく眠れなかったよ」「子どもが悪さされるんじゃないかと心配」…
ひどい言葉が行き交って、見ているだけで気が滅入りました。でも映画はあえてこの問題を深追いしません。多少ともこういった問題に関心のある人にとっては、問題への対応にやや不満を覚えるかも知れません。私もこの問題どうなってしまうんだろうと心配になりました。
ところが何日か後に、ちゅうさんの隣の家のお父さんが反対している人たちの中心人物に
「あなた間違ってるよ」
とぼそっとひとこと言う場面が差し挟まれています。ここで長々とそのことを話すのではなく、さらっと差し挟まれている、というのがいいなと思いました。こうやって地域社会が少しずつ変わっていくんだよ、という監督の静かなメッセージだと思いました。
お父さんもちゅうさんの家の隣に引っ越してきた頃は、グループホーム反対を叫んでいる人たちと同じような思いでちゅうさんを見ていました。でも、地域で起こったある事件をきっかけに、ちゅうさんと出会うことになります。初めてちゅうさんという人間を知ることになります。ちゅうさんといろいろ話をするわけではないのですが、ちゅうさんのそばにいて、なんとなく心安らぐような気持ちになったのだと思います。
そしてグループホーム反対を叫ぶ中心人物の言葉を聞き、思わず
「あなた間違ってるよ」
と、ぼそっと言います。ここであーだこーだ論争したりするのではなく、ほんの一言だけぼそっと言う言い方が、いかにも生活に根ざした言葉だなと思いました。
こういう言葉がじっくりと広がっていくこと、それが地域社会が変わっていくことです。
考えてみれば、ぷかぷかを開設した時も、たくさんの苦情が来ました。でも、5年、10年経つうちに、苦情に変わって、たくさんのファンができました。
ですから地域社会が変わるには、多分時間はかかります。
でも10年後、たくさんの出会いがあって、
「ここにグループホームができてよかったよ」「ちゅうさんがいてよかったね」
っていう言葉が映画に出てくる人たちからきっと出てくるように思います。