福祉事業所では
「障害者が作ったものだから買ってあげる」
といった関係がよくあります。でも、そういう感じで買ってもらうって、なんか嫌だなと思っていました。何よりも、そういった関係ではいいものはできません。そうではなくて
「おいしいから買う」
という関係をこそ作りたいと思いました。
「おいしい」
というところで勝負するのです。ほかのお店に負けないくらいおいしいものを作る。材料にこだわり、作り方にこだわり、とにかくおいしいものを作ることをぷかぷかは大事にしてきました。
結果、おいしいから買う、という当たり前のお客さんが増えただけでなく、ぷかぷかさん自身が質の高い仕事、本物の仕事をすることで、びっくりするくらい成長していました。
そんなことを思うのは、先日久しぶりに厨房を覗かせてもらい、ぷかぷかさんたちの手際の良さにびっくりしたからです。
その日は魚のフライの仕込みをしていました。三人並び、最初の人は魚に粉をつけて次の人に渡し、次の人は溶き卵をつけ、最後の人はパン粉をつけます。
右側のナオコさんは魚に小麦粉をつけ、次の人のボウルに入れます。ナオコさんは、どちらかというと障がいの重い方です。でもここでは、三人並んだ仕事のペースメーカーになっていました。スタッフはそばについていません。
ナオコさんは障がいは重いけれども、与えられた仕事をきちんとこなす方です。福祉事業所によくある単純作業ではなく、おいしいものを作る、という本物の仕事をこなしてきました。それを毎日くりかえす中で、ナオコさんはその場のペースメーカーになるほどに成長したのだと思います。
準備ができたのを見計らって、ナオコさんが小麦をつけた魚を次の人のボウルに入れるところからこの三人組の仕事が始まりました。
次々に魚を回していきます。
粉をつけます。
溶き卵をつけます。
パン粉をつけます。
流れるような仕事ぶりにびっくりしました。三人の呼吸が合い、仕事がどんどん進みます。いつもこのメンバーでやるわけではなく、誰がやってもこんな風に仕事が流れるそうです。
彼らをここまで持ってきたスタッフさんの働きがすごいなと思いました。そばで何にもいわなくても、ここまで仕事をやってしまうぷかぷかさんの成長にびっくりしながら、彼らを支えてきたスタッフさんの働きに頭が下がりました。スタッフさんたちに感謝!感謝!です。
障がいの重い方が、仕事の現場でペースメーカーになっているなんて、痛快じゃないですか。素晴らしいのひと言です。
おいしいもので勝負しよう、という目標が、こんなふうにみんなを成長させ、みんなが生き生きと働く現場を作り出したのだと思います。
何年か前、区役所の販売でほかの福祉事業所の弁当販売と重なったことがありました。私はお互い競争すればもっとおいしい弁当ができるんじゃないかと思ったのですが、相手は「うちは福祉ですから、競争はしません」なんていい、なんか力が抜けました。区役所が調整して、その事業所とは別の日になったのですが、なんだかなぁ、という感じでした。
「福祉だから競争しない」って、ま、競争しなくても福祉サービスの報酬が入るので事業は回るわけですが、職場の活気は生まれません。おいしい弁当も生まれません。仕事として、なんかつまらない気がします。
やっぱり職場には活気があって、商品が売れた時はみんなで大喜びしたり、売れない時はがっかりしたり、それが仕事の面白さです。ぷかぷかに笑顔が多いのは、そういった面白さが職場にあるからだと思います。そういった中でみんな人として成長していきます。
そういった可能性を「うちは福祉ですから、競争はしません」と最初から閉じてしまうのは、利用者さんに悪いじゃん、なんて思ってしまうのです。