尾野一矢さんの大きな声への苦情にどう対応するかという問題についてふたたび考えます。
声がうるさい、という苦情は、10年前、ぷかぷかを始めてすぐにありました。パン屋の店先で
「おいしいパンはいかがですか」
というぷかぷかさんの大きな声に
「うるさい!」
という苦情の電話が入りました。お店を始めてすぐだっただけに、私にとっては大変なショックで、苦情に対して何も言えませんでした。
直接の働きかけはできませんでしたが、日々の活動(お店を運営しながら「障がいのある人たちとはいっしょに生きていった方がいいよ」というメッセージの発信と、そう思えるようなお店の雰囲気作り、地域の人たちとの関係作り)だけはしっかりやっていました。一番よかったのは、ぷかぷかさん達が毎日元気に、楽しく、笑顔で働き続けたことです。その姿を地域の人たちはずっと見ていました。その結果、少しずつぷかぷかのファンが増えてきました。
電話をかけてきた人は近所の方(声が聞こえる距離、多分上の階の方です。)だったので、ひょっとしたらパンを買いに来たかも知れないし、「ぷかぷかしんぶん」を読んだかも知れません。「ぷかぷかしんぶん」はお店のある団地の全戸にポスティングしています。ですから苦情の電話をしてきた家にも入っていて、家の人は多分見ています。
そのせいかどうかわかりませんが、その後、声がうるさいという苦情はありません。同じところを行ったり来たりする姿が目障りで、メシがまずくなるとか、パニックを起こした人の声がうるさい、という苦情はありましたが…。
この10年で、地域の人たちと関係を作ることの大切さを学びました。そういった経験の上での一矢さんの大きな声に対する苦情の問題をどう解決していくのかをいろいろ考えました。
一矢さんに「大きな声を出さないように」といくら言っても、なかなか理解はむつかしいようです。ですから大きな声をなくすのではなく、大きな声とどうやったら共存できるかというところで問題を考えていった方がいいような気がします。
今回の相手はアパートの上の部屋に住む人です。すぐ上だけに、一矢さんの大きな声はよく響くんだろうなと思います。しかも一矢さんのことを全く知らないとなれば、うるさいだけでなく、ちょっと怖い思いもします。
「ったくうるせーなぁ」
といらいらしながら苦情の電話を介護者を派遣しているNPOの苦情の窓口に電話したのだろうと思います。直接怒鳴り込まなかったのは、何か問題があればここに電話して下さい、とNPOの方に言われていたのだと思います。もし一矢さんの部屋に怒鳴り込んでいれば大混乱になったと思います。そういうトラブルを避ける意味ではNPOの最初の対応は正解だったと思います。
苦情の電話を受けたものの、その後、苦情の相手に具体的な対応をしていないようです。一矢さんは今も時々大きな声を出すので、介護の方はまた苦情が来るのではないかとハラハラしているようです。ここで積極的に前に出て行かないと、このハラハラ状態と上の部屋に住む人への迷惑は解消できません。
大きな声とどんな風に共存していくのか、それを上の部屋に住む人とどんな風に共有するのか。一矢さんの自立生活にとっては大きな勝負所です。一矢さんの自立生活を支えるチームの力量が問われます。
「ともに生きる社会を作ろう」とか叫んでいる神奈川県の役人に、この現場に来て欲しいですね。そんな言葉でこの一矢さんの自立生活が引き起こした深刻な問題が解決できるのかどうか考えて欲しいです。
で、どうするのかという作戦。
近々あいさつに行く予定でいます。菓子折よりは、一矢さんを感じられるものがいいと思い、来週小さな植木鉢を作ります。一矢さん一人ではできないので、介護の人に手伝ってもらいながらですが、なるべく一矢さんの手が入ったことが感じられるように作っていきたいと思っています。
花の植わった手作りの植木鉢をもらうなんて、ふつうはなかなかないことなので、インパクトのあるあいさつになると思います。
下の写真はぷかぷかさんの作った花瓶ですが、これをもう少しシンプルで小ぶりにしたものを作ります。
この写真は壁に掛ける一輪挿しですが、花が植わるとこんな感じでとても華やかです。
「え?この植木鉢、この方が作ったんですか」
なんて話から多分始まります。
「この方が、あの大きな声を…」
と、手作りの植木鉢を見ると印象はかなり変わります。
ここから一矢さんの話をします。それは先日書いたような内容です。一矢さんはどういう人で、どうしてここで暮らしているのかといった話です。
大きな声とどんな風に共存していくのか、それを目の前の方とどう共有できるか。そのためには相手の方が一矢さんのことをよく知ることが大事です。なんだかんだと一矢さんと会う機会を作りましょう。
ぷかぷかに来て何回目かにこんな顔をする一矢さんに出会いました。一矢さんて優しいおじさんなんですね。やはり何度も会うことが大事です。
先日のブログでこんな言葉を書きました
「重い障がいのある人が暮らしやすい街は、誰にとっても暮らしやすい街です。そういう街作りに、協力していただけるととてもうれしいです。」
これは
「ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」
ではなく、
「誰もが住みやすい街つくりに協力して下さい」
という前向きの提案です。協力、という形で、一矢さんの自立生活に、いわば巻き込んでしまうのです。
一矢さんの部屋の上に住み、時々聞こえる大きな声に顔をしかめながらも、そのことが「誰もが住みやすい街つくりに協力する」事になるなんて、なんだかすごいお得な提案だと思います。
植木鉢の次は、朝、モーニングコーヒーを飲むカップを作って持っていきましょう。毎朝、コーヒーを飲むたびに一矢さんのことを思い出します。茶碗も作って持っていけば、ご飯食べるたびに思いまします。
そんなおつきあいを積み重ねていくと、大きな声を聞いても
「あ、またかよ、ったくしょーがねーなー」
という感じで受け止めてくれるように多分、なります。そうすればこの作戦は大成功です。要は友達になってしまうのです。名付けて「友達大作戦」。
どなたかほかにいい作戦があればぜひ提案して下さい。
提案は takasaki@pukapuka.or.jp までお願いします。