グループホームの2階から落ちてけがをした人がいて、どうしたんだ、と聞いた時の答えがいい。
「宇宙人がやってきて、その宇宙船に乗ろうと思って足を踏み出したら…」
落っこちたという。
「何バカなのこといってんの」
と一笑に付されるのが落ちだが、
「そうか、宇宙船に乗り損なったか、そりゃぁ残念だったね」
とみんなでその話を面白がるのが北海道浦河の「べてる流」。確かこの話は、ある年のべてるの家「妄想、幻想、幻聴大会」でグランプリを取った。
私もこんな話は大好きだ。こんな話こそ、世界を豊かにすると思う。ぷかぷかさんたちといっしょに生きていこうと思ったのは、そういう話がいっぱい出てくるからだ。
これは多分何かと戦っている。時々
「お姫様がさらわれた、助けに行く」
とか言って、本当にどこかへ行ってしまう。あとで探し出すのが大変だが、それでも見つけた時は、頭ごなしに叱ったりするのではなく
「あれ?お姫様はどうしたの?」
と、聞いたりする。
精神障害の人たちの幻覚とは少し違う世界だが、こういう世界とは仲良くした方が、人生、楽しい。頭ごなしに否定するところからは何も生まれない。
この本は「べてるの家」を牽引してきた川村先生が日赤を辞め、浦河の街の中に小さな診療所を開き、そこでの日々を語ったもの。
川村先生も、どこかで彼らと出会い、彼らの生きる世界の豊かさに気がついたのだと思う。そしてその豊かな世界を彼らといっしょに生きようとしている。