ぷかぷか日記

けんいち君が入ってからは三振なし、敵味方なし、チームなしになったの

『街角のパフォーマンス』の続き。30年前、養護学校の素敵な子どもたちに出会い、こんな人たちを養護学校に閉じ込めておくのはもったいない、と学校の外へ連れ出しました。一番おもしろかったのは、武蔵野にある広大な「原っぱ」に出かけたとき。子どもたちが野球をやっていて、知らないうちにけんいち君がその仲間に入っていました。けんいち君は私が担任していた重度障害といわれている子どもです。いっしょに遊んだみさえの報告。あんまり素晴らしいので、全文記載します。

 

 「私たちが野球をしていると、気がついたときにいたというか、あとから考えても、いつ来たのかわかんないけど、けんいち君が入っていて、バットを持ってかまえているので、お兄さんのあきら君や大久保君にゆっくり軽い球を投げてもらい、いっしょに野球をやることにしたんです。

 けんいち君は、最初のうちは球が来ると、じーっと球を見て、打たなかったんです。球の行く方をじっと見ていて、キャッチャーが球をとってからバットを振るのです。

 でもだんだんタイミングが合うようになり、ピッチャーゴロや、しまいにはホームランまで打つのでびっくりしちゃった。

 それから、打ってもホームから動かないで、バットをもったまま、まだ打とうとかまえている。走らないの。

 お兄さんのあきら君や大久保君や私たちで手を引いていっしょに一塁に走っても、三塁に行ってしまったりして、なかなか一塁に行かないんだもん。どうも一塁には行きたくないらしいんです。

 でも、誰かと何回もいっしょに走るうちに、一塁まではなんとか行くようにはなったんだけど、それ以上は2,3塁打を打っても、一塁から先は走らないで、ホームに帰ってしまって、バットをかまえるのです。

 「かして」っていってバットを返してもらおうとしたけど、返してくれないの。誰かがとろうとしてもかしてくれないんです。でも、どういうわけか不思議なことに、私が「かして」というと、かしてくれるのでうれしかったです。

  だから、けんいち君が打ったら、バット持って行っちゃうから、私がけんいち君を追いかけていって、バットをかしてもらい、みんなに渡して順番に打ちました。終わったらまたけんいち君という風に繰り返しました。

 けんいち君はすごく楽しそうに見えたよ。最初はうれしいのか楽しいのかわからない顔だったけど、ホームランを打ち始めてから、いつもニコニコしていた。

 一緒に野球をしたのは7人。敵、味方なし、チームなしの変な野球。アウトなし、打てるまでバット振れる。ほんとうはね、けんいち君が入るまでスコアつけていたんだけど、けんいち君が入ってからは三振なし、敵味方なし、チームなしになったの。一年生のちびっ子たちには都合がよかったみたい。負けてたからね。」

 

f:id:pukapuka-pan:20200512162457j:plain

 

 初めてけんいち君と出会いながら、いっしょに野球やろうと、子どもたちがいろいろ工夫したところがいいなぁ、と思います。こうやって工夫することで、子どもたちは成長します。

 

 2020年3月18日重度障害児の地元小学校の就学希望を認めないという判決が出ました。

重度障害児の地元小通学認めず 地裁判決「裁量権の範囲」 | 社会 | カナロコ by 神奈川新聞

 受け入れる側の子どもたちの成長の機会が大人の都合で奪われました。素晴らしい機会だったのに、もったいないです。大人たちの想像力のなさを思います。

 

 原っぱで養護学校の子どもたちとのおつきあいが楽しくなり、子どもたちの一人はその後支援学校の教員になったという話を聞きました。すごくいい体験だったんだなと思います。 

最近の日記
カテゴリ
タグ
月別アーカイブ