宮澤賢治作『どんぐりと山猫』は一郎のうちに山ねこからおかしなはがきが来るところから始まる、ひとときの夢物語。さしたる起伏もないお話です。ところが最後、一郎がどんぐりを入れたますを持って自分のうちの前に立っているところまで来て、突然、そのさしたる起伏もないお話が、ひとときの夢のような時間をプレゼントしてくれたことに気がつきます。
《それから「やまねこ拝」というはがきはもう来ませんでした。》
というナレーションは、現実の世界に引き戻されたさびしさを突きつけます。
《 かねた一郎さま 九月十九日
あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。
あした、めんどなさいばんしますから、おいで
んなさい。とびどぐもたないでくなさい。
山ねこ 拝 》
というおかしな、それでいて、なんだかわくわくするようなはがきが無性にいとおしくなります。そのはがきから始まる夢のようなお話すべてが、楽しかったなぁ、と思い返したりします。
そのひとときの夢物語『どんぐりと山猫ーぷかぷか版』を、今日「表現の市場」でやります。ぜひ見に来てください。