昔、三ツ境養護学校で全校生で1年かけて芝居作りをやったことがあって、そのときの資料でおもしろい話があったので紹介します。生徒たちのアイデアからテーマを決め、そのテーマに沿って1年かけて(正確には4月から11月末の文化祭まで)、生徒たちのアイデアを生かしながら芝居を作っていきます。
「太陽サンサンサン」というのがテーマに決まった年がありました。話を進めるのにいろんな問題を出します。このときは
「太陽がサンサンと光り輝く日、君たちは何がしたい?」
という問題を出しました。いろんなアイデアが出てきたのですが、一番おもしろかったのは
「つめたいこうちゃをおれとかのじょとのみほしたいぜ
たばこをいっぷく ちゅうかりょうり
プロレスのはなしをしながらサンダーライガーの
しあいをみにいこうぜ〜まちだまで」
彼女とお茶を飲んで、中華料理を食べて、プロレスを見に行く、なんてすばらしいデートプランだと思いました。「アイスティー」ではなく「つめたいこうちゃ」というあたりがなかなか渋いセンスというか、正直ですね。彼女としゃれたレストランではなく、いかにも大衆食堂の中華料理、というあたり、最高にいい!と思いました。食べるのはもちろんフルコースとかじゃなくて、焼きそばと餃子、あるいは中華どんぶりあたり。そのあと、二人でプロレスを見に行く、というのが、とどめのように効いています。こんな楽しい話は大人の頭では絶対に思いつきません。
早速このお話を少し膨らませて、テーマソングを作りました。
♪ 太陽サンサンサン 太陽サンサンサン
こんな日には デートをしよう
つめたい紅茶を 二人で飲んで
たばこをいっぷく ぷーかぷか
中華料理を むーしゃむしゃ
プロレスの試合を見て、
さぁ 二人でとっくみあいだぁ
あ〜太陽サンサンサン あ〜太陽サンサンサン
あ〜あ こんな日は たのしいな ♪
大人が書き直すと、とたんにつまらなくなるいい例ですが、それでも作った本人たちが芝居をやると、元の言葉のエッセンスがよみがえって、すごく楽しかったのです。
体育館のフロア全部を使って芝居が始まります。全校生、全職員がぐるっと輪になってフロアを囲みます。役者たちはその真ん中で芝居をします。
太陽サンサン王国の朝。名前の通り太陽がいっぱいサンサンと輝きます。若い二人が歌詞の通りにデートをし、プロレスを見に行きます。試合を見ているうちについ興奮して二人ともリングに飛び込んでしまいます。二人でとっくみあいが始まります。女が男を投げ飛ばし、
「ああ、いい気持ち、こんなデートは最高!」
と、うっとりしたところでライトが消え、体育館は真っ暗。
「やみやみ大王」たちの怪しい声
「わしらが歩くと 世の中真っ暗闇だぁ うはっはっは」
「昼がないから 学校へ行かなくていい! どうだ、いいだろう」
「試験も何にもない! どうだ、いいだろう」
「毎日毎日夜遊びばっかり。どうだ、いいだろう」
「どうだ、わしらは神さまみたいだろ」
「太陽なんてない方がいい。これからはこのやみやみ大王がこの国の王様だ!」
とかなんとかいってるうちに、やみやみ大王が大事にしている花が枯れてしまいます。
嘆き悲しむやみやみ大王のところへ花の医者がやってきます。
「これは太陽に光が不足しているのが原因です。太陽の光をサンサンと当てればすぐに直ります」とアドバイス。
「大事な花のためなら仕方がない。太陽が昇るのを許そう」とやみやみ大王。
再びサンサンと輝きはじめた太陽の光の中、再び二人はデートに出かけるのでした。
ここでブルーハーツの歌がガ〜ンとかかります。
♪ どこまで行くの 僕たち今夜
このままずっと ここにいるのか
はちきれそうな とびだしそうな
生きているのが すばらしすぎる… ♪
生徒たちが考える突拍子もないお話は、芝居をはち切れそうなくらい楽しくしたのでした。
生きているのが すばらしすぎる…。それを生徒たちと共有したいと思いました。