ぷかぷか日記

「手も足もないナメクジが、どうしてすもうをとるんだ。それはおかしい」

 9月22日、第5期2回目の演劇ワークショップがありました。今期は宮澤賢治作『ほらクマ学校を卒業した三人』を取り上げるのですが、中身はわりとエグい話というか残酷な話なので(といっても、これは人間から見た感想であって、生き物にとっては相手を食べてしまうのは当たり前の話)、場合によっては、

「こんなのいや」

という人が出てくるかも知れません。それでも、すごく面白いところもあったり、ほらクマ先生のいう

「なんでもいいから一番になれ」

という教育方針は、今の社会が目指すものと重なるところがあって、そこをぷかぷかさんたちといっしょに

「それはちがう」

ということがうまく表現できないか、という思いがあります。

 

 まずはお話の概要を進行役のはなちゃんに話してもらいました。

 

赤い手の長いクモと、銀いろのナメクジと、顔を洗ったことのないタヌキが一緒にほらクマ学校に入りました。ほらクマ先生は校歌の中でこんなことを教えました。

 

♪ カメはのろまに 歩いて見せた ウサギだまされ昼寝した 

 早いはえらい 大きいはえらい 勝てばそれまで だまされたが悪い

 なんでもいいから 一番にな〜れ なんでもいいから 一番になれ 

 なんでもいいから 一番にな〜れ なんでもいいから 一番になれ

 

 三年たって三人は仲良くほらクマ学校を卒業しました。三人はうわべは大変仲よさそうにほらクマ先生を呼んで謝恩会をやったり、自分たちのお別れ会をやったりしていましたが、お互いにみな腹の中では

「へん、あいつらに何ができるもんか、これから誰が一番大きくえらくなるか見ていろ」

と、そのことばかり考えていました。

 さて会も済んで、三人は銘々うちに帰ってきて、いよいよ習ったことを自分でほんとうにやることになりました。

 

ちゃうどそのときはかたくりの花の咲くころで、たくさんのたくさんの眼の青い蜂の仲間が、日光のなかをぶんぶんぶんぶん飛び交ひながら、一つ一つの小さな桃いろの花にあいさつして蜜や香料をもらったり、そのお礼に金色をした円い花粉をほかの花のところへ運んでやったり、あるいは新らしい木の芽からいらなくなったロウを集めて六角形の巣を築いたりもういそがしくにぎやかな春の入口になっていました。

 

  クモは大きくなろうと、もう一生懸命であちこちに十も網をかけたり、夜も見張りをしたりしました。ところが困ったことに食物があんまりたまって、腐敗したのです。そして蜘 蛛の夫婦と子供にそれがうつりました。そこで四人は足のさきからだんだん腐れてべとべ とになり、ある日とうとう雨に流されてしまいました。

 

 ナメクジは訪ねてきたカタツムリたちに親切でしたが、相撲をやって投げ飛ばし、気を失ったカタツムリやトカゲたちを食べて、どんどん大きくなりました。カエルも相撲をとって食べるつもりでしたが、塩をまかれ、ナメクジはとけてしまいました。

 

 タヌキは自分のお寺へ帰っていましたが、腹が減って困っていました。訪ねてきたウサギに

「山猫大明神さまのおぼしめしじゃ、なまねこなまねこ」

と妖しいお経を上げながらウサギを食べてしまいます。続いてやってきたオオカミも食べてしまいます。 オオカミが持ってきた籾三升も飲み込んでしまいます。籾がお腹の中でどんどんふくらんで、25日めに狸はからだがゴム風船のようにふくらんでそれか らボローンと鳴って裂けてしまいました。

 

 

と、概要を話したあと、クモ、ナメクジ、タヌキのグループに分かれ、簡単なお話を作ってもらいました。グループに渡した台本は原作の一部分です。

 

 

クモの台本

 「ここはどこでござりまするな。」                    

と云いながらめくらのかげろうが杖をついてやって来 た。        

「ここは宿屋ですよ。」                         

と蜘蛛が云った。 かげろうはやれやれというように、巣へ腰をかけました。蜘蛛は走って出ました。そして                      

「さあ、お茶をおあがりなさい。」                    

と云いながらいきなりかげろうのおなかに噛みつきまし た。
かげろうはお茶をとろうとして出した手を空にあげて、バタバタもがきながら、       

「あわれやむすめ、父親が、旅で果てたと聞いたなら」          

と哀れな声で歌い出しました。                     

「えい。やかましい。じたばたするな。」                 

と蜘蛛が云いました。するとかげろうは手を合 せて           

「お慈悲でございます。遺言のあいだ、ほんのしばらくお待ちなされて下されませ。」                                

と ねがいました。
蜘蛛もすこし哀れになって              

「よし早くやれ。」                           

といってかげろうの足をつかんで待っていました。かげろうはほんとうにあわれな細い声ではじめから歌い直しました。

「あはれやむすめちゝおやが、旅ではてたと聞いたなら、
 ちさいあの手に白手甲、いとし巡礼の雨とかぜ。
 非道の蜘蛛の網ざしき、さはるまいぞや。よるまいぞ。」

 「小しゃくなことを。」                        

 と蜘蛛はただ一息に、かげろうを食い殺してしまいました。そし てしばらくそらを向いて、腹をこすってからちょっと眼をぱちぱちさせて、又糸をはきま した。

 

 

ナメクジの台本

 ある日雨蛙がやって参りました。

「なめくじさん。こんにちは。少し水を呑ませませんか。」

と云いました。 なめくじはこの雨蛙もペロリとやりたかったので、思い切っていい声で申しました。

「蛙さん。これはいらっしゃい。水なんかいくらでもあげますよ。ちかごろはひでりです けれどもなあに云わばあなたと私は兄弟。ハッハハ。」

蛙はどくどくどくどく水を呑んでからとぼけたような顔をしてしばらくなめくじを見て から云いました。

「なめくじさん。ひとつすもうをとりましょうか。」

なめくじはうまいと、よろこびました。自分が云おうと思っていたのを蛙の方が云ったのです。こんな弱ったやつならば五へん投げつければ大ていペロリとやれる。

「とりましょう。よっしょ。そら。ハッハハ。」

かえるはひどく投げつけられました。

「もう一ぺんやりましょう。ハッハハ。よっしょ。そら。ハッハハ。」

かえるは又投げつ けられました。するとかえるは大へんあわててふところから塩のふくろを出して云いまし た。

「土俵へ塩をまかなくちゃだめだ。そら。シュウ。」

塩が白くそこらへちらばった。 なめくじが云いました。

「かえるさん。こんどはきっと私なんかまけますね。あなたは強いんだもの。ハッハハ。 よっしょ。そら。ハッハハ。」

蛙はひどく投げつけられました。 そして手足をひろげて青じろい腹を空に向けて死んだようになってしまいました。銀色 のなめくじは、すぐペロリとやろうと、そっちへ進みましたがどうしたのか足がうごきま せん。見るともう足が半分とけています。

「あ、やられた。塩だ。畜生。」

蛙はそれを聞くと、かばんのような大きな口を一ぱいにあけて笑いました。そしてなめくじにおじぎをして云いました。

「いや、さよなら。なめくじさん。とんだことになりましたね。」

なめくじが泣きそうになって、

「蛙さん。さよ……。」

と云ったときもう舌がとけました。雨蛙はひどく笑いながら

「さよならと云いたかったのでしょう。本当にさよならさよなら。わたしもうちへ帰って からたくさん泣いてあげますから。」

と云いながら一目散に帰って行った。

 

 

タヌキの台本

狼が籾を三升さげて来て、どうかお説教をねがいますと云いました。 そこで狸は云いました。                        

「お前はものの命をとったことは、500や1000ではきくまいな。生きとし生けるものならば なにとて死にたいものがあろう。それをおまえは食ったのじゃ。早くざんげさっしゃれ。 でないとあとでえらい責苦にあうことじゃぞよ。おお恐ろしや。なまねこ。なまねこ。」                     

狼はすっかりおびえあがって、たずねました。             


「そんならどうしたらいいでしょう。」
                 

狸が云いました。                              

「わしは山ねこさまのお身代りじゃで、わしの云うとおりさっしゃれ。なまねこ、なまねこ…」
                          

「どうしたらようございましょう。」                  

「それはな。じっとしていさしゃれ。わしはお前のきばをぬくじゃ。このきばでいかほど ものの命をとったか。恐ろしいことじゃ。お前の目をつぶすじゃ。この目で何ほどのもの をにらみ殺したか、恐ろしいことじゃ。それから。なまねこ、なまねこ、なまねこ。お前 のみみをちょっとかじるじゃ。これは罰じゃ。なまねこ。なまねこ。こらえなされ。お前のあ たまをかじるじゃ。むにゃ、むにゃ。なまねこ。この世の中は堪忍が大事じゃ。なまねこなまねこ。 むにゃむにゃ。お前のあしをたべるじゃ。なかなかうまい。なまねこ。むにゃ。むにゃ。 おまえのせなかを食うじゃ。ここもうまい。むにゃむにゃむにゃ。」        

とうとう狼はみんな食われてしまいました。
そして狸のはらの中で云いました。

「ここはまっくらだ。ああ、ここに兎の骨がある。誰が殺したろう。殺したやつはあとで 狸に説教されながらかじられるだろうぜ。」          

 狸はやかましいやかましい蓋をしてやろう。と云いながら狼の持って来た籾を三升風呂敷のまま呑みました。

 ところが狸は次の日からどうもからだの工合がわるくなった。どういうわけか非常に腹 が痛くて、のどのところへちくちく刺さるものがある。 はじめは水を呑んだりしてごまかしていたけれども一日一日それが烈しくなってきてもう居ても立ってもいられなくなった。 とうとう狼をたべてから二十五日めに狸はからだがゴム風船のようにふくらんでそれか らボローンと鳴って裂けてしまった。

 

 

 この台本をそのままやるのではなく、グループごとに話し合い、この台本から見えてくる情景をまず絵に描いてもらいました。

 クモのグループにいたタカハシのおじさんは、台本を読んでも最初どういうお話かよくわからなかったのですが、ヨッシーが目の見えないカゲロウをやるといいだし、それがきっかけで絵が描き上がり、芝居ができました、とおっしゃっていました。 

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絵の発表

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芝居の発表

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 ナメクジグループでは、ショーへーさんが

「手も足もないナメクジが、どうしてすもうをとるんだ。それはおかしい」

と言い出したのがきっかけで、手も足もあるナメクジを描き始め、そこからイメージが広がっていったそうです。

 はじめは芝居をやる気があるのかないのかはっきりしなかったのに、いざ発表になると行司役をやったイクミさんは、練習にもなかったセリフ

「ひが〜し〜、なめくじやま〜、に〜し〜、かえるやま〜

なんていいだし、なんかすごいなぁ、とおっしゃってました。 

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みんなが絵を描いているそばで、こんな関係ができるところがぷかぷかのワークショップのいいところです。

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絵の発表

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芝居の発表

ひが〜し〜、なめくじやま〜

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はっけよ〜い

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のこった、のこった…

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塩をまかれて、ナメクジは足からとけてしまいました。

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 タヌキグループはテラちゃんがタヌキの絵を迷いなく一気に描き、それにあわせてハヤチャンがオオカミを描いたところから動きが始まりました。

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絵の発表

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芝居の発表

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食べられるオオカミのパーツ(きば、頭、背中など)に別れて表現したところがすばらしかったと思います。

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 今回、とりあえず芝居を作っていく手がかりがつかめました。これをどう広げていくかが、そこにぷかぷかのメッセージがどれだけ込められるか。最初にメッセージありき、ではつまらないので、ぷかぷかさんと一緒に作っていく中で、どこまでそういったものを見つけられるか、だと思います。

 10月には、クモにカゲロウが食べられるところをデフパペットシアターひとみの人たちに「浄瑠璃」でやってもらう予定です。

「あはれやむすめちゝおやが、旅ではてたと聞いたなら、
 ちさいあの手に白手甲、いとし巡礼の雨とかぜ。
 非道の蜘蛛の網ざしき、さはるまいぞや。よるまいぞ。」

また、青い目の蜂たちが飛び回るシーンをプロの振り付け師と一緒に作ろうと思っています。

 これからどんどん面白くなります。

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