8月18日(土)から第五期演劇ワークショップが始まります。今期は宮澤賢治作『ほらクマ学校を卒業した三人』(ぷかぷか版)を作ります。
原作は結構残酷というか、えぐい感じがするので、もう少し違う感じで、賢治が問いかけた問題をぷかぷからしく表現したいと思っています。
賢治は何を問いかけたか。それはほらクマ学校の校歌にあります。
♪ カメはのろまに 歩いて見せた ウサギだまされ昼寝した
早いはえらい 大きいはえらい 勝てばそれまで だまされたが悪い
なんでもいいから 一番にな〜れ なんでもいいから 一番になれ
なんでもいいから 一番にな〜れ なんでもいいから 一番になれ
〈 早いはえらい 大きいはえらい 勝てばそれまで だまされたが悪い
なんでもいいから 一番にな〜れ なんでもいいから 一番になれ 〉
と、物語に出てくる〈赤い手長のクモ〉と〈銀色のナメクジ〉、それに〈顔を洗ったことのないタヌキ〉に競わせます。
クモとナメクジとタヌキの絵を描くとこうなります。この三人が、
〈 なんでもいいから一番にな〜れ 〉
と、ほらクマ学校で教え込まれ、卒業後、お互い相手を馬鹿にしながら競い合います。で、最後は三人とも惨めな死に方をします。ほらクマ先生は、三人とも賢い、いい子供らだったのに、実に残念だった、といいながら、大きなあくびをします。
みんなが一生懸命になってやってきたことが、大きなあくびをする程度のことに過ぎなかった、というわけです。
ワークショップではぷかぷかさん達と一緒にこの校歌を歌い、
〈 なんでもいいから一番にな〜れ 〉
の意味を探ります。
ぷかぷかさん達は、理屈っぽい話は苦手ですから、〈赤い手長のクモ〉と〈銀色のナメクジ〉〈顔を洗ったことないタヌキ〉は一番になるために何をやったのかをまず考えます。
簡単な物語を考え、芝居で発表します。それをお互い見せ合い、
〈 なんでもいいから一番にな〜れ 〉
の意味を探っていこうというわけです。
〈 なんでもいいから一番にな〜れ 〉
は、私たちが子どもの頃から何の疑いもなくやってきた考えのように思います。
〈一番になることがいい〉〈成績がいいことがとにかくいいことだ〉はからだに染みついていて、そういう視点で人を分けていきます。知らず知らずのうちに〈生産性〉があるかないかで人を評価してしまっています。
そういう視点は人を追い込み、息苦しい社会を作っていきます。
〈生産性〉の期待できない障がいのある人たちは社会から排除されていきます。
昔、養護学校の教員になって最初に受け持った子ども達はみんな重度の障がいを持った子ども達で、おしゃべりすることも、文字を書くことも、一人で着替えしたりトイレに行ったりすることもできない子ども達でした。
〈 なんでもいいから一番にな〜れ 〉
からもっとも外れる子ども達でした。じゃあ、その子達は全くだめな子ども達だったかというと、そうではなくて、今まで知らなかったなんともいえない人の魅力を持っていて、毎日おつきあいしているうちに、私は彼らに惚れ込んでしまったのです。
そばにいるだけで、心がほっこりあたたかくなる人なんて、それまで私のまわりにいた
〈 なんでもいいから一番にな〜れ 〉
とがんばっている人たちの中にはいませんでした。
〈 なんでもいいから一番にな〜れ 〉
で一生懸命やってきたのは、なんだったんだと思いました。おしゃべりすることも、文字を書くことも、一人で着替えしたりトイレに行ったりすることもできない子ども達が、
〈 それはちがう 〉
といっていたのだと思います。
ぷかぷかさんと一緒にワークショップをやることで、そういうことが見つかればいいな、と思っています。