昨日、デフパペットシアターひとみのマッキーがガンのため亡くなりました(ちょうどみどりアートパークの舞台で「はこ」をやっているときでした)。いちばんパワーのある役者でした。マッキーのパワーあふれるパフォ−マンスに心惹かれた「ぷかぷかさん」がいました。まーさんです。
まーさんは鬱病を持った方です。いつも暗い顔して「人生、楽しいことなんかない」「死にたい」「死にたい」と毎日のように言っていました。それでもある日
「デフパペのマッキーのパフォーマンスがかっこよかった」
と、ぽろっと言ったことがありました。ぷかぷかの4周年のイベントでデフパペットシアターひとみの人にきてもらってパフォーマンスをやってもらったことがあって、それがかっこよかったというのです。はじめてと言っていいくらいの前向きの言葉でした。そのあこがれのマッキーがワークショップに来るので、まーさんを誘いました。
まーさんはマッキーと一緒に人形を作りました。
作りながらいろいろお話をし、稽古場に来ていいよ、といわれました。
7月17日、汗だくになりながら電車、バスを乗り継いでデフパペットシアターの稽古場まで行きました。生きてて楽しいことなんかない、というまーさんにとっては、汗だくになってでも出かけたいところがあった、というのは大変な出来事でした。
『森と夜と世界の果てへの旅』の稽古をやっていました。すぐそばで見るとすごい迫力でした。まーさんも初めて見る舞台稽古の迫力にびっくりしたようでした。
8月に長野県の飯田でデフパペットシアターの舞台に立つワークショップの企画がありました。ワークショップの一週間後、デフパペの舞台に一緒に立つというすごい企画です。
「まーさん、飯田に行こう!」
と、大きな声で誘いました。まーさんはにたにた笑っているだけでした。でも、まーさんのこれからの人生がかかっている気がして、なんとしてもまーさんを飯田まで連れて行きたいと思いました。
1時間ほど見て、そろそろ引き上げようかなと思っていると、マッキーがまーさんを舞台に呼び、本番で使う人形を持たせてくれました。ジュジュマンという物語の主人公の人形です。マッキーはどうやったら人形が生きてくるのか、丁寧にアドバイスしていました。マッキーに手伝ってもらって実際に人形も動かしました。
これが効いたのかどうか、1週間後、
「飯田まで行くのにいくらぐらいかかりますか?」
と聞いてきました。
新幹線とローカル線を乗り継いで飯田まで片道4時間、交通費は往復で18,000円くらいかかります。まーさんにとっては大変な額です。それでも「いいです、それで行きます」と言ったのです。
いつも暗い話ばかりで、毎週のように「もう仕事やめます」「なんの希望もないので、もう死にます」と言っていたまーさんが、18,000円も払って、4時間もかけて長野の飯田まで行くと言い出したのです。
飯田でのワークショップはひたすら歩く練習でした。「森と夜と世界の果てへの旅」のラストシーンで、倒れ込んだ主人公ジュジュマンと一緒に再生に向けてアフリカの太鼓のリズムで歩くのです。
舞台の後ろで横たわっているところから始まって、ジュジュマンと一緒に歩き、お客さんにあいさつして終わるまで、時間にしてわずか1分20秒です。その1分20秒のシーンを作るために3時間のワークショップがあったのですが、その1分20秒の舞台に立つために、まーさんは次の週、本番に向けて、また長野まで出かけたのでした。
今まで何度も、
「もうなんの希望もありません、生きててもつまらないので、もう死にます」
と言っていたまーさんが、まさかここまで来るとは思ってもみませんでした。ワークショップの持つ力というのは本当にすごいと思いました。それとまーさんが動き出すきっかけを作ったマッキーのパワーあふれるパフォーマンス。それがなければ、そもそもこの物語は始まりませんでした。
そして1週間後の本番の舞台。前日は緊張のあまりほとんど眠れなかったといってましたが、振り付け師によるリハーサルのあと、いよいよ本番。
緊張した舞台もあっという間に終わり、最後にあこがれのマッキーと写真を撮りました。
舞台のあとの心のほてりがそのまま出ているような写真です。この1枚の写真を撮るために飯田まで行ったんだなと思います。
マッキーのパワーあふれるパフォーマンスが、この素敵な物語を作りました。感謝と、そして合掌。マッキー、本当にありがとう!