今日も暑い中、文句ひとついわず、いつものようにケヤキが立っています。
黙って、ここに立ち続けること。雨の日も、晴れの日も、うだるように暑い日も、凍えるような寒い夜も、バケツをひっくり返したような嵐の日も、星のきれいな夜も、黙ってここに立ち続けること。
そのことを自分に課し、律儀にそれを守ってきたケヤキ。
いつか木の幹に耳をあて、ケヤキが見てきたこの街の歴史を聞いてみたいと思っています。
ある日 木があいさつした
といっても
おじぎしたのでは
ありません
ある日 木が立っていた
というのが
木のあいさつです。
そして 木がついに
いっぽんの木であるとき
木はあいさつ
そのものです
ですから 木が
とっくに死んで
枯れてしまっても
木は
あいさつしている
ことになるのです。
(石原吉郎)