朝の会が終わってみんな仕事場に散ってしまっても、座り込んだまま動かない、いや、動けないセノーさん。
養護学校で私が担任していたとき、福祉事業所に実習に行って一日で「もう来なくていい」と言われ、実習が中止になったことがあります。多分こんな感じだったのだろうと思います。
セノーさんは確かにシャキシャキと働いたりはしません。それでも彼なりのペースでお弁当を運んだり、味噌汁を運んだりしています。毎日入金の時は一緒に郵便局に行ってくれます。月一回のしんぶん印刷、銀行から大金を降ろすときのボディガード役は、とても楽しみにしています。シャキシャキではなく、こういう働き方をする人なのです。
なによりもセノーさんがいることで,周りの人たちが癒やされます。世の中にはマッサージなど、人を癒やすことを仕事にしている人はたくさんいます。マッサージよりもはるかに深いところで人を癒やしてくれるセノーさんは、ですから、ああ見えて、実はほかの誰にもできない「癒やし」という大事な仕事をやっていることになります。
癒やしの仕事はぷかぷかの中だけでなく、毎日のように行く郵便局で窓口のお姉さんたちを癒やしています。銀行に行っても、あの固い雰囲気を一気に和らげています。
こんなことは誰にでもできる仕事ではありません。セノーさんにしかできない仕事です。これって、すごいじゃないかと私なんかは思ってしまいます。
Facebookページにセノーさんの話が載ると、それだけでアクセス数が一気に増えます。Facebookページを見るだけで、何か癒やされるものがあるのだと思います。セノーさんの存在感そのものが社会を癒やしている,というわけです。
社会全体が、そんなふうにセノーさんを受け止めてくれるようになれば、みんなはもっとゆるっとした気分になって、日々がもっと楽になるように思うのです。
セノーさんは時々パニックになって「あ、き、は、ば、ら!」とか「あ、に、め、い、と!」とかわめきながらも、実は今日もせっせと街を耕しているのです。