今日は4月1日。30年ほど前の4月1日、私が担任していたなおちゃんのお葬式がありました。小学校の5年生でした。とにかく元気な子どもで、ほとんど一日中、彼を追いかけていました。時々学校から逃げ出してしまい、みんなで大探ししました。自転車が大好きで、自転車に乗って逃げ出したときは、本当に大変でした。
3月30日の夜、彼は家から飛び出して、自転車に乗って逃げ回っている最中に電車にはねられて亡くなりました。いつかこんなことがあるんじゃないかって、お母さんはいつもおっしゃってましたが、覚悟を決めていたんだと思います。
覚悟を決めるほどの日々の中で、それでもお母さんに休みの日をプレゼントしようと、ワークショップをやるときはなおちゃんを一日預かりました。いっしょにゲームしたり、ものを作ったりしたのですが、すきを見ては逃げだし、みんなで大探ししました。
『街角のパフォーマンス』にそのときのことを書いていますので紹介します。
《 お獅子を作った日、なおちゃんが逃げ出しました。会場になっている旭センターの前には車のビュンビュン行き交う厚木街道が走っているし、近くには線路もあって気が気ではありません。街道沿いから脇道へと捜索範囲を広げ、1時間近く探し回りましたが、全く手がかりがありません。気持ちはもう半泣き状態で、ひとまず旭センターに戻りました。センターの前に置いてあった自転車がなくなってる、という情報が入りました。
「え〜っ!自転車がない?」
目の前が真っ暗になりました。歩いてならともかく、大好きな自転車に乗って逃げていたら、逃げ出して1時間近くたった今、見つけ出すことはほとんど不可能に近い気がしました。もし本当に見つからなくて事故にでも遭ったら、それこそ大変なことになります。それ見たことかと寄ってたかって責め立てられ、私はもう学校にいられないだろうし、それだけでなく、今まで長い時間かけて作ってきた「あおぞら市」の「うどん屋」とかワークショップがみんなつぶされてしまう気がして、もう想像しただけでいたたまれない気持ちでした。
絶望的な雰囲気の中でもう一度車に乗って探しに出かけました。街道ぞいに三つくらい先の駅まで探しましたが、なんの手がかりもありません。もう本当にがっくり、という感じで引き返しました。
そのとき、向こうからパトカーがやってきました。
「あれになおちゃんが乗っていたらなぁ」
なんて仲間と話していたら、すれ違いざまちらっと見たそのパトカーの後ろの席に、なんとなおちゃんがにこにこしながら乗っていたのです。
「ああ、なおちゃん!」
て、思わず大声で叫びました。
慌ててパトカーを追いかけ、警察で引き取りました。なんでもどこかの家に上がり込み、テーブルの前に座っていてそうで、それがあまりにも堂々としていたので、その家のおばあちゃんはてっきり孫の友だちかと思ってジュースとお菓子を出したんだそうです。
「でも、何を話しかけても全然しゃべらないし、これはおかしいと思い110番したのだけれど、にこにこしながらお菓子をよく食べてねぇ」
というおばあちゃんの話を聞きながらうれしくなりました。
なおちゃんが電車にはねられたのは、このおばあちゃんの話を聞いた三ヶ月後でした。 》
なおちゃんはとにかく台風のような存在で、おつきあいするのは本当に大変でしたが、それでもこんなふうに人をなごませる雰囲気を持っていました。
4月1日のお葬式の日、なおちゃんがいつも飛び込んでお店の中を引っかき回していた近くのスーパーの店員さんが大泣きしていたと聞きました。まわりに思いっきり迷惑かけながらも、一方で大泣きしてしまうほどの深いおつきあいをなおちゃんは作っていたのだと思います。