雑誌『横濱』の取材の時に、瀬谷でやっていたワークショップの話をしたのですが、昔書いた『街角のパフォーマンス』に「海のぬいぐるみ」の写真があったことを思いだしました。家に帰って本を見ていたら、「海のぬいぐるみ」の横に、なんと「1000円札のぬいぐるみ」がありました。
ワークショップで芝居を作るとき、いろんな手がかりを使うのですが、このときは「ぬいぐるみ」を作って、それを手がかりに芝居を起こしました。2枚の模造紙に、ものの両面を描き、まわりをホッチキスで留めていきます。全部留めないで、残ったところから2枚の模造紙の間に新聞紙を丸めて入れていき、丸みを持たせます。残ったところをホッチキスで留めると、簡単なぬいぐるみができます。
ぬいぐるみといえば、大概はクマさんとが、子犬とか、丸っこいものをイメージします。ところが養護学校の生徒で「海のぬいぐるみ」を作った人がいました。
「え?海がぬいぐるみになるの?」「どうやって作るの?」「海って丸っこくないんじゃないの?」
と、全く想像できません。
ところが養護学校の生徒は特に考えこんだりもせず、ささっと写真のようなぬいぐるみを作りました。波線を何本も描き、「うみ、うみ、うみ」と書いていました。
この自由な発想力に、私は本当にびっくりしました。「海のぬいぐるみ」の側には「1000円札のぬいぐるみ」もあります。
薄っぺらな1000円札がぬいぐるみになるとは誰も思いません。でも、こうやって、さして考え込むこともなく「じゃあ、オレ、1000円札のぬいぐるみ作るよ」ってさらっと言いだすところがすごいと思うのです。
発想力の自由さにおいて、私たちは彼らの足下にも及びません。そんな彼らと一緒だからこそ、ワークショップはすばらしく豊かなものを生み出すのです。
「こういう人たちとは一緒に生きていった方が絶対に得!」と確信を持ったのは、「海のぬいぐるみ」や「1000円札のぬいぐるみ」と出会った頃でした。