プロモーションビデオの制作をきっかけに、やはりそれなりのメッセージをきちんと伝えるぷかぷかの映画を作りたいと思い始めました。演劇ワークショップの記録映画はできましたが、ぷかぷかそのものの記録映画はまだできていません。近いうちに本をまとめようと原稿を書きつつあるところですが、やはり映像にはかなわないと、映画『ぷかぷか』を見ながらしみじみ思いました。
映画に込める思いを書きます。
記録
●ぷかぷかの今を映像で記録しておきたいと思うのです。
《 いっそ「記録」は過去ではなく、未来に属していると考えたらどうだろう 》
《 写真家はこういって「そう考えなければ、シャッターを切る指先に、いつも希望が込められてしまうことの理由がわからなくなる」と続ける。……家庭で淡々と子どもの日常を記録する母親のふるまいにも、役所で誰のためともなくこつこつ書類をとじる人の作業にも、きっと密やかな祈りが込められている。 》
と、少し前の朝日新聞「折々のことば」にありました。
未来への希望を込めた、密やかな祈りのような映画にしたいと思うのです。
●この記録は、障がいのある人もない人もお互い気持ちよく生きていける社会を実現するための手がかりになります。「障がいのある人たちと一緒に生きていきたい」という思いからぷかぷかはスタートしました。彼らとは一緒に生きていった方がいいよ、というメッセージを日々発信し続けました。ぷかぷかがこの5年間やってきたことは、すべて「一緒に生きていった方がいい」というタイトルの物語であり、その先には「お互い気持ちよく生きていける社会の実現」があります。それへの手がかりを探った5年であったように思うのです。
この時代の閉塞感を打ち破るのは、ぷかぷかのメンバーさん達ではないか、という気が最近しています。「ぷかぷかが好き!」という人が増えている今、やはり救われるのは私たちの方ではないかと思ったりするのです。映画はですから、私たちを救うためのものでもあるのです。
●「この国には何でもある。ほんとうにいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」(『希望の国のエクソダス』) 淋しいですが、実際そう思います。政治の劣化は目を覆うばかりです。「希望だけがない」。なんて淋しい言葉でしょう。なんて淋しい国にいるのでしょう。といって、絶望するわけにもいきません。私たちは日々、子どもたちと一緒に明日に向かって生きているわけですから。何よりも子どもたちの未来があります。
国に希望が持てないなら、私たちで作っていくしかありません。子どもたちが希望の抱ける社会にしたいと思うのです。(7月にオペラ『ロはロボットのロ』を子どもたちにプレゼントしました。わくわくするような時間は、明日に向かっていくルエネルギーを生みます。明日に向かう希望を生みます。)
ぷかぷかの記録映画には障がいのある人たちといっしょにどう生きていくのかということについて、未来に希望の持てる物語がいっぱい詰まっています。
瀬谷区役所の外販の時のお客さんの行列です。社会のお荷物だとか、厄介者といったマイナスイメージばかりの障がいのある人たちのお店にこんなにたくさんの人が並ぶのです。ぷかぷかのパンのおいしさと、ぷかぷかのメンバーさんの魅力が作った行列です。ここには「希望」があると思っています。
パン教室には子どもたちがたくさん参加します。何の偏見もなく、メンバーさんとおつきあいしながら楽しくパンを作ります。
ここには未来への「希望」があります。子どもたちの作る未来が楽しみです。
今までどこにもない福祉事業所
先日の緑区役所での人権研修会のアンケートを見ると、今までの概念が覆されました、という趣旨の感想がいくつかありました。私はありのままのぷかぷかを語ったのですが、それが、今までの概念を覆すほどのものだったことに、アンケートを見て気がつきました。ぷかぷかは、福祉事業所の、新しいあり方を提案しているのかも知れません。福祉事業所が地域の人たちと一緒になっておもしろいことをいっぱいやれば、地域は元気になり、今よりずっと豊かなものになります。それが利用者さんたちの人生をも豊かにします。
●ぷかぷかは地域社会と様々なチャンネルでつながりを作り、地域社会を豊かにし、一緒に新しい文化を生み出しています。
たくさんの人たちがお店に買い物に来て、メンバーさんたちと出会い、自分の幅を広げています。人が豊かになり、地域が豊かになります。
ぷかぷかのメンバーさんと地域の人たちが一緒に創りだした新しい文化。こういう作品を舞台にあげ、たくさんの人が見ることで、地域は豊かになっていきます。
演劇ワークショップの試みは、「福祉の現場において、多様な文化の向上に尽くしている」ことが評価され、読売福祉文化賞を受賞しました。
地域社会に文化と豊かさを。
地域の子どもや大人も一緒になって、みんなで大きなクジラの絵を描きました。
こんな大きな絵は家庭では描けません。家庭ではできないことがぷかぷかでできた、ということが大きかったと思います。ぷかぷかは今、地域の人たちにとってとても大事な場になっています。
みんなで作り上げること。みんなのエネルギーを集中させ、それを表現にまで高めること。それが文化の創造であり、地域社会を豊かにすることだと思います。
緑区民まつりでぷかぷかの手がけたブース。50張りくらいあったテントの中で唯一楽しいデザインを施したテント。こういうものが社会を楽しくします。豊かにします。
上の写真は地産地消サポート店マップ。近々区役所のロビーに飾られます。メンバーさんの描いた絵がすばらしく自由で、楽しいです。十日市場の駅の近くをサイが散歩していたり、鴨居駅の近くでイルカが泳いでいたりします。ロビーがちょっと楽しく、豊かな空間になります。
●地域の子どもたちとメンバーさんとのおつきあいの機会をたくさん作り、未来に希望の種を蒔いています。
● 福祉事業所の応援団ではなく、純粋に「ぷかぷかが好き!」「ぷかぷかのファン」という人たちを自然に増やしています。
このご家族はお子さんの1歳の誕生会をカフェでやりました。「料理のおいしさだけでなく、ほっこりするスタッフさんとの触れ合いも楽しみの一つです」とおっしゃっています。そして誕生会の日、「メンバーさんといっしょに写真撮らせて下さい」とおっしゃったのです。
メンバーさんの声がうるさいと苦情の電話がかかってきたり、ウロウロ同じところを行ったり来たりするメンバーさんが目障りだと面と向かっていわれたり、何度も心が折れそうになりましたが、ぷかぷかがスタートして3年目に撮れたこの写真にはほんとうに救われました。この1枚の写真を撮るためにがんばってきた感じがしました。
●本物の仕事で勝負している福祉事業所。
ほかのパン屋に負けないパンくらいおいしいパン、ほかのカフェに負けないくらいおいしい食事と雰囲気、ほかの店に負けないくらいおいしい惣菜、弁当で勝負しています。そういう本物の仕事をしているので、メンバーさんの日々が充実し、笑顔がたくさん生まれます。本物の仕事はメンバーさんの人生をしっかり支えます。「最近仕事はどうですか?」の質問に「まっすぐ前を向いて生きています」と語ってくれたメンバーさんもいます。言葉が光っています。
●障害のある人たちを支援する、と彼らを上から目線で見るのではなく、一緒に笑ったり、悩んだり、怒ったりしながら、この時代を一緒に生きていこうと思っています。もちろん必要なときはいろいろな手助けはします。でもそれは一緒に生きていく仲間として当然だからやるだけの話です。彼らとの関係性が「支援」とは根本的にちがいます。
●障害のある人たちを支えるよりも、むしろ彼らに支えられている福祉事業所です。彼らがいないぷかぷかは淋しいお店です。どこにでもあるただのパン屋であり、ただのカフェであり、ただの惣菜屋になってしまいます。スタッフだけで営業した日に来たお客さんは「なんだか別のお店に来たみたい。淋しいですね」とおっしゃってました。やっぱり彼らあってのぷかぷかであり、彼らに支えられているぷかぷかなのです。
映画作りには、まだまだいろんな思いがあるのですが、疲れたので今日はここでおしまいにします。読んでいただいてありがとうございました。