養護学校の保護者の方から、先日の講演会の感想が送られてきました。
ぷかぷかは「障がいのある人たちが、ありのままの自分でいられること」「そういう形で仕事が成り立つこと」「彼らのありのままがお客さんの心を癒やしていること」、そういったことをこの5年で少しずつ作り出してきました。それは障がいのある人たちの親御さんにとっては「希望」につながる物語だったようです。
障がいのある人たちの多くは、社会の基準に合わせるべく、日々大変な努力をしています。障がいのある人たちの「ありのままの自分は社会の中で通用しない」ということが一般的な通念になっているからです。
でも、ぷかぷかは、その「ありのままの自分は社会の中で通用しない」という一般的な通念を実際の仕事の現場でひっくり返したのではないか、と思っています。ありのままの自分で仕事が成り立っているからです。どうしてそんなふうになったのかを少し書きたいと思います。
私は養護学校で教員をやっているときに、養護学校の子どもたち、生徒たちに惚れ込み、彼らと一緒に生きていきたいと思って、定年退職後、彼らと一緒に生きる場として「ぷかぷか」を立ち上げました。
ありのままの彼らに惚れ込んだものの、仕事の現場でありのままの彼らが通用するかどうかは正直不安でした。接客などというものは全く経験がなかったので、講師を呼んで接客の講習会を開いたりしました。
ところが、期待していた講習会にはなんともいえない違和感を覚えました。要するに接客マニュアルがあって、その通りにしなさいと講師は言うのですが、その通りにすればするほど、《彼ららしさ》がなくなっていくのです。
マニュアルにある接客用語(「お待たせいたしました」「かしこまりました」「少々お待ちください」「申し訳ございません」「恐れ入ります」等)は、彼ら自身の言葉ではありません。ですから、この言葉を繰り返すだけのマニュアルは、やればやるほど彼ららしさがなくなって、私にとっては気持ちの悪いほどでした。
彼ららしさがなくなるのであれば、彼らと一緒に生きていきたいと思って始めた「ぷかぷか」の意味がなくなるので、講習会は一日でやめました。
お客さんに不愉快な思いをさせない、ということだけ守ってもらえば、あとは自分の言葉で気持ちを伝えればいい、というところでマニュアルなしの接客が始まりました。ヘタでもいい、心を込めて接客すれば、お客さんにその心はきっと届くと思っていました。
接客マニュアルがなくて、いちばん不安だったのは彼ら自身だったと思います。寄りかかるものがないので、それぞれほんとうに一生懸命考えて接客しました。その一生懸命さがお客さんにはしっかり届いたようでした。
カフェに来たお客さんからこんなメールをいただいたことがあります。
《丁寧に、慎重にコーヒーをテーブルに おいてくれたお店の方。 心がこもっていて、一生懸命なのが すごく伝わりました。また行きますネ!》
このときのメンバーさん、緊張のあまりコーヒーカップを持つ手が震えていたのですが、お客さんにはメンバーさんの思いがそのまま伝わっていたようです。心のこもらないマニュアル化された接客ばかりの世の中にあって、ぎくしゃくしつつも自分で一生懸命考えてやる接客は新鮮で、お客さんの心をぽっとあたためたのではないかと思います。
こんなメールもありました。
《メンバーのユミさんが「すごいねー、いっぱい食べるねー」と厨房に話しているのが微笑ましく、明るい彼女にひとときの幸せをいただきました。また、たくさんパンのおかわりをしに、笑顔をいただきに、カフェに行きますね。》
「ひとときの幸せをいただきました」とか「笑顔をいただきにカフェに行きますね」という言葉がほんとうにうれしいです。こんな言葉はマニュアルによる接客からはまず出てきません。
「なんかゆったりとした空間で、すごく良かった。」とか「今日はやわらかい時間を過ごさせていただきました。」といったメールもいただきました。
こういった言葉は障がいのある人たちのありのままの接客が生み出す「新しい価値」といっていいほどのものだと思います。一流ホテルのレストランの接客でも、こんな言葉は多分生み出せません。
それはまた彼らとの新しい「出会い」だと思います。その出会いが生み出した「なんかゆったりとした空間で、すごく良かった。」とか「今日はやわらかい時間を過ごさせていただきました。」といった言葉からは「豊かな空間、時間」がイメージできます。
障がいのある人たちの、あるがままの接客が、お客さん達に「豊かな空間、時間」を提供しているというわけです。「ぷかぷかが好き!」とか「ぷかぷかのファンです」というお客さんがどんどん増えているのも、彼らが作り出す豊かなものにふれたせいだと思います。
ぷかぷかは、「障がいのある人たちが、ありのままの自分でいられる」場所なのです。そしてそのことで今までにない豊かなものを生み出しているのだと思います。