昔子どもの保育園でいっしょだった全盲の珠美さんがお母さんといっしょにぷかぷかへやってきました。昔私が撮ってパネルにしてプレゼントした写真を持ってきました。5歳の頃の写真です。保母さんに読んでもらった絵本を手でなぞっています。
目のガンで、眼球を両眼とも摘出し、4歳で世界を見ることができなくなりました。摘出手術の前、お母さんは珠美さんに
「私の顔をしっかり覚えてて!」
って泣きながらいうしかなかった、とお母さんはその頃の辛い話をいっぱいしてくれました。
そんな辛い話をはねのけるように珠美さんは毎日元気いっぱいに保育園の中を走り回っていました。あちこち段差があったり、階段があったりで、なんの配慮もない保育園でしたが、まぁ、そんなの関係ない!って雰囲気でしたね。太鼓をたたいていた写真も持ってきました。
あれから15年。今、大学附属視覚特別支援学校に通う元気なお姉さんになっていました。池袋にはしょっちゅう遊びに行くそうで、地下街なら車の心配がないので、一人で歩き回ってショッピングしたりして楽しんでるそうです。地下街で方向がわからなくなり、迷子になることの多い私は、目をつぶって一人で地下街を歩き回るという珠美さんがなんだかスパーマンのように見えました。
もうすぐ学校も卒業で一人暮らしをするそうです。
「え?目が見えないのに一人暮らし?大丈夫?」
と、私なんかはつまらない心配をして、
「区役所の障害支援課に行って、どういう支援が使えるのか相談した方がいいよ」
なんて言ったりしたのですが、
「大丈夫、近くに友だちがいればなんとかなります。知らない人に来てもらうより、その方がずっといい」
「料理は?」
「なんとかなります」
と、なんの不安もないようでした。
びっくりしたのはiPhoneを全く普通の人のように使いこなしていたことです。
文字を打つのは私の何倍も早く、新しいページをどんどん開いていきます。なんの引っかかりもない画面の上の文字を正確に、しかもものすごいスピードでタッチし、文字を選択していたので、本当にびっくりしました。私は両目があいていてもここまでできないので、いったいどうなってるの、という感じでした。
iPhoneには音声で読み上げるするアプリが入っているので、それをONにすれば、なんの問題もないといってました。読み上げるスピードが速すぎて、わたしには何を読んでいるのかさっぱりわかりませんでした。
ぷかぷかのホームページもあっという間に検索し、Facebookページに載っていた「今日のおすすめお惣菜」を調べ、
「和菓子、おいしそうね」
なんて言ったりして、なんかね、もう負けた、って感じでした。
アート屋わんどに立ち寄り、大きなガラスの窓にさわって
「あ、クレヨンで描いているのね」
と、自分でも描き始めました。世界をいとおしむように両手でさわる横顔がステキでした。
おひさまの台所で
「あれ、チカちゃんじゃない」
とお母さんがいい、珠美さんと小学校でいっしょだったそうです。10年ぶりくらいの再会でした。
目が見えなくても、私以上にたくましく生きる珠美さんに脱帽でした。