アメリカのボーイング社が「世界各国のコミュニティニーズに応える斬新でインパクトの強いプログラムを求めている」というので、ワークショップの企画を提案することにしました。今まで書いてきたことをまとめたようなものです。
①目的およびゴール
《目的》演劇ワークショップの手法を使って、障がいのある人たちと地域の人たちとの新しい関係を作り、その中で今までにない新しい価値といっていいほどの楽しい芝居を作りたいと思っている。それはNPO法人ぷかぷかの基本理念でもある「障がいのある人たちとはいっしょに生きていった方がいい」を目に見える形で表現することでもあり、それがこのプロジェクトの目的だ。
彼らといっしょに芝居作りをやっていると、彼らの存在がとても大事な存在であることが見えてきて、彼らに向かって「あなたが必要」「あなたにいて欲しい」「あなたがいないと困る」と思える関係が自然にできてくる。社会の中では考えられないような関係だ。
社会はまだまだ障がいのある人たちと、前向きの、いい関係が作りきれず、「なんとなくいやだ」「怖い」「何をするかわからない」「効率が悪い」などと、彼らを社会から締め出してしまっている。社会の中に彼らが堂々と働く場所,居場所がないのは、やはり社会がそんな風に彼らのことを思っているからだと思う。
彼らをそんな風に社会から締め出してしまうのは、社会の大変な損失になる。それは、社会にはいろんな人がいること、その多様性こそが社会に豊かさをもたらしていると考えるからだ。
そういった社会的状況の中で、障がいのある人たちといっしょに活動する方が、今までにないおもしろい「場」ができ、価値ある「作品」ができる、ということを演劇ワークショップをやっていく中で伝えていきたい。
《ゴール》障がいのある人たちと地域の人たちで月一回演劇ワークショップをおこない、6ヶ月かけて芝居を作っていく。最後にみんなで作った芝居を大きなホール(客数340人)の舞台で上演する。これが今回のプロジェクトのとりあえずのゴールだが、これで終わり、というわけではない。むしろここから障がいのある人たちとの新しい関係が始まり、ひろがっていくと思っている。
②社会のニーズにどのように貢献できるのか
口にはしないものの、障がいのある人たちのことを「何となくいやだな」と思っている人は多い。障害者施設を建てようとすると、地元住民から反対運動が起きることさえある。とても悲しいことだが、これが障がいのある人たちの置かれた社会的状況だと思う。
これは障がいのある人たちに問題があるのではなく、彼らのことを知らないことによって生じる問題だと思う。「何となく怖い」とか、「何をするかわからない」といった印象は、彼らのことを知らないことから生まれる。“知らない”ということが、彼らを地域から排除してしまう。
彼らの生きにくい社会、異質なものを排除してしまう社会、他人の痛みを想像できない社会は、誰にとっても生きにくい社会だろうと思う。誰かを排除する意識は、許容できる人間の巾を減らすことにつながる。社会の中で許容できる人間の巾が減ると、お互い、生きることが窮屈になる。これは同じ地域に暮らす人たちにとって、とても不幸なことだと思う。
逆に、彼らが生きやすい社会、社会的弱者が生きやすい社会は、誰にとっても生きやすい社会になる。
「誰にとっても生きやすい社会」は、みんなが望んでいるものであり,「社会のニーズ」と言っていい。そんなニーズに応えるにはどうすればいいのか。そんな社会はどうすれば実現できるのか。
NPO法人ぷかぷかは5年前、障がいのある人たちの社会的生きにくさを解消するために立ち上げた。具体的には街の中に障がいのある人たちの働くお店(パン屋、カフェ、お惣菜屋、アートショップ)を作り、街の人たちと彼らが知り合う機会を毎日の生活の中で作ってきた。彼らと知り合うことは、彼らの生きにくい社会を少しでも解消し、誰にとっても生きやすい社会を実現していくための小さな一歩を踏み出すことでもある。
更にNPO法人ぷかぷかでは「障がいのある人たちとはいっしょに生きていった方がいいよ」というメッセージをホームページ(「ぷかぷかパン」で「検索」)
(http://pukapuka-pan.xsrv.jp/index.php?FrontPage)、Facebookページ(https://www.facebook.com/pages/ぷかぷか/320074611512763)、ぷかぷかしんぶん(http://pukapuka-pan.xsrv.jp/index.php?ぷかぷかしんぶん)など、様々な形で毎日発信している。
演劇ワークショップの試みは、この「障がいのある人たちとはいっしょに生きていった方がいい」という言葉を実感する場といっていい。いっしょに生きていって「何ができるのか」「何が創り出せるのか」「彼らの価値をどう生かせるのか」を、みんなで確かめ、具体的な形=芝居で表現する試みでもある。大きなホールの舞台で上演することで、たくさんの人たちと「いっしょに生きていった方がいい」というメッセージを共有できる。
たくさんの人たちが「障がいのある人たちとは、いっしょに生きていった方がいいね」と思うようになることは、「誰にとっても生きやすい社会」の実現に向けて、みんなで歩き出すことだ。
③プロジェクトによる効果および評価方法
演劇ワークショップに参加すると、いっしょにやっている障がいのある人たちに向かって「あなたが必要」「あなたにいて欲しい」「あなたがいないと困る」と素直に思える関係が自然にできる。社会の中でそういう関係がなかなかできない中で、このことの持つ意味はとてつもなく大きい。なぜなら、彼らが社会から締め出されている大きな原因が、彼らといい関係が作れないところにあるからだ。
障がいのある人たちと、前向きのいい関係、新しいものを創り出すクリエイティブな関係を作る上で、演劇ワークショップの手法は絶大な「効果」を持つ。こういう関係を持続的に作り、広げていくことが、「誰にとっても生きやすい社会」を実現していく上でとても大事だと思う。
プロジェクトの「評価方法」は発表会を見に来たお客さんがどう評価するか、ということにつきる。昨年のワークショップで作り上げた芝居は「表現の市場」(表現を通して障がいのある人たちと出会い直そうというイベント)で発表したのだが、見に来たお客さんの感想を見ると、この発表がどういう意味を持っていたかがよくわかる。
「表現の市場」を見に来たお客さんの感想(その一部)
・とてもおもしろかったです。自由でありながら、全体としてステージが成立しており、ユーモアにあふれ、いい時間でした。個性と多様性あふれるパフォーマンスに、こちらも元気になりました。他者への壁(バリア)が少ない彼らの存在に、現代社会が学ぶことも多いなと思いました。
・ちょっと見て帰ろうと思ったのですが、おもしろくて、楽しくて席が立てなくなりました。今日の舞台を見てたくさんの人たちが「おもしろい」「楽しい」と思うようになったら、世の中、もう少し生きやすくなると思います。
・「森は生きている」を見に来ました。地域の人たちといっしょに作っている雰囲気がとてもよかったです。感動して涙が出ました。
・こういうことができる街はすばらしいと思う。
・まさに表現の市場でした。どの舞台も、障がいのあるなしに関わらず、それぞれの人が一生懸命舞台に立っている姿に感動しました。ありがとうございました。
・心がほっこりしました。演劇としてとか、メッセージとか関係なく、みんなといるだけで、そのままで、なんだか癒やされる感じがしました。
・みなさんのパワーあふれるパフォーマンスに心打たれました。みんなの楽しそうな笑顔が最高でした。それぞれのすばらしい表現に感動しました。
・涙が出ました。ありがとう!また家族で見に来たいと思いました。
・みなさん一生懸命取り組んでいて、感動しました。ダンスでは車いすの方が立ち上がって踊り出し、胸が熱くなりました。
・第1部から第3部まで大変すばらしかったです。どのパフォーマンスも、とっても元気をもらえました。誰もが明るく、明日を生きていこうと思える演技でした。次回も楽しみにしています。
・表現することを楽しまれ、見ている私もうれしくなりました。今後もこの活動を続けていって欲しいです。
・みなさん、生き生きと表現されていて、すばらしかったです。また来てみたいと思いました。楽しい時間をありがとうございました。
・とてもすばらしい内容で、楽しく拝見させていただきました。今後ともこの市場が長く続くことを楽しみにしております。
・とっても楽しくて笑いがいっぱいのステージでした。自由に表現する出演者のみなさんを見ていたらいっしょにやりたくなりました。第2回、第3回と続いて行くといいなと思います。
・感動しました。素敵な企画をありがとうございました。
・みなさん、レベルが高く、驚きました。元気と笑顔をもらいました。
・心あたたまる演目ばかりで、すごくよかったです。
・心から楽しませていただきました。今後がとても楽しみです。
・ぷかぷかの「森は生きている」超おもしろかった。たくさん練習したのですね。すばらしかったです。
・照明、音楽、演出、小道具、とっても垢抜けていました。
・どのグループの発表もすばらしかったです。ぜひ続けていただきたいです。みなさんはいろいろ可能性を持っていることをあらためて感じさせていただきました。
感想の中に《今日の舞台を見てたくさんの人たちが「おもしろい」「楽しい」と思うようになったら、世の中、もう少し生きやすくなると思います。》《こういうことができる街はすばらしいと思う。》というのがあるが、私たちのメッセージはきちんと届いたように思う。
(ホームページにワークショップおよび表現の市場の記録を載せています)
「表現の市場」とは
http://pukapuka-pan.xsrv.jp/index.php?表現の市場
「表現の市場」の舞台
http://pukapuka-pan.hatenablog.com/entry/2014/11/26/000027
演劇ワークショップで作った芝居の舞台
http://pukapuka-pan.hatenablog.com/entry/2014/11/30/152009
本番前日の演劇ワークショップ
http://pukapuka-pan.hatenablog.com/entry/2014/11/23/232321
④他の組織ではなく、貴団体がプロジェクトをおこなう意義およびその貢献について
1980年代の初め、フィリピンの演劇人たちによって演劇ワークショップがはじめて日本に持ち込まれた。当時養護学校の教員をやっていた高崎(現在NPO法人ぷかぷかの代表)が、この手法を使えば障がいのある人たちともっといい出会いがあるのではないか、とプロの演劇集団黒色テントの協力を得ながら、地域の人たちにも呼びかけ、障がいのある人たちといっしょに演劇ワークショップを始めた。(当時、演劇ワークショップはアジア、中南米における識字教育における手法の一つとして研究の対象にする人が多く、障がいのある人たちといっしょにやってみよう、と提案する人は誰もいなかった。)
彼らといっしょにやるワークショップは予想をはるかに超える楽しい場になり、腹の底から笑えるような芝居がたくさんできた。社会から邪魔者扱いされている彼らが、ワークショップの場では絶対に必要な存在だった。「あなたに一緒にいて欲しい」と素直に思えるような関係が、ワークショップの場では自然にできあがった。「障がいのある人たちとはいっしょに生きていった方がいい」という思いは、ここから生まれた。
5年前、養護学校を定年退職し、NPO法人ぷかぷかを立ち上げて障がいのある人たちの働くお店を街の中に作った時、この「障がいのある人たちとはいっしょに生きていった方がいい」という思いがそのまま法人の理念となった。
彼らの働くお店を運営しながら、彼らと地域の人たちとの関係を丁寧に作ってきたが、更に踏み込んだ関係を作り、その関係の中で作った芝居を舞台にあげたいと思った。障がいのある人たちといっしょだからこそ作り出せるものを舞台で表現することで、《彼らとはいっしょに生きていった方がいい》という思いをたくさんの人たちと共有できると思ったからだ。それは、いっしょに生きていくことで豊かなものが生まれる、ということを舞台の作品を通して伝えることでもあった。
障がいのある人たちは今までどちらかといえばマイナスのイメージで受け止められていたが、そうではなくて、彼らといっしょに生きていくことで、今までにない豊かなものが生まれ、私たち自身が、私たちの社会が豊かになることを伝えたいと思う。それはとても大きな社会貢献になる。
⑤プロジェクトの発展性
演劇ワークショップは現在みどりアートパークのリハーサル室でやっているが、スペースの関係で、参加できる人数が限られてしまう。マキシマムで40人程度。ホームページやFacebookページで情報発信したおかげで参加希望者がたくさんいるが、スペースの関係でお断りしている状態。発表会をやるホールは300人くらい入るので、そのときに見に来てもらうにしても、やはりワークショップは見るよりも、実際に自分の体を動かしてはじめてそこでやっていることの意味がわかるものだ。
ここに参加した人、あるいは発表会を見に来た人たちが、自分たちのところでもやってみたいと思ったときに、演劇ワークショップの技術的なフォローの体制ができていれば、いろんなところでワークショップはできる。障がいのある人たちとのクリエイティブな関係がどんどんひろがっていくことになる。
これは今までにない画期的な関係であり、新しい文化といっていいほどの作品があちこちで生まれるだろう。社会は今までにない豊かさを手に入れることになる。