2年前、メイシネマ映画祭の招待作品としてツンさんの映画が上映されました。そのときは「観客を喜ばせよう」といった思いのないところがいい,とか、自分の表現したいことだけやっているところがいい、という評価がたくさんありました。そういった評価が最近は裏目に出たのか、今年できあがった旅行の記録映画は、自分の表現したいものばかりで、旅行の記録映画としては、とてもわかりにくいものになっていました。見る人を別に喜ばせなくてもいいと思いますが、何を伝えようとしたのかさっぱりわからない、というのも困ったものです。すっかり自分の世界に閉じこもってしまった感がありました。そこで思いついたのが、人に伝わる動画の制作の提案です。
で、先日、ツンさんにぷかぷかの動画を依頼しました。
「ぷかぷかのパンのおいしさを伝える動画を作ってほしいのですが、どうですか?」
「誰にでもわかるようなものは作れません」
旅行の記録映画の作りから見て、そう言うだろうなと思っていました。
「あの、自分で好きなように作るのではなくて、人に伝わる作品を作ってほしい、という仕事の依頼です。」
「むつかしいです」
「そう言い張ってしまうと、これからもずっと人に向かって心を開くことができなくなると思います。。ツンさんが社会に出て行こうとするとき、いちばん引っかかるのは、この、人に向かって心を開く、という問題でしょ。」
ツンさんはコミュニケーションを取ることがとてもむつかしい方です。いっとき映像を通して気持ちが人に向かったことがあって、いい傾向だと思っていたのですが、最近はそういう気持ちがだんだん見えなくなっていました。もう一度そういうふうに人に向かう気持ちを取り戻してほしいと、人に伝わる、わかりやすい動画の制作を依頼したのでした。
でも、あまり伝わってない気がして、少し攻め口を変えました。
「YouTubeにアップするので、著作権フリーの音楽を使って下さい」
「映画に使えるほどのいい音楽がありません」
「だったら音楽なしの、映像だけの動画はどうですか?」
「いつも音楽が先にあって、それに映像を合わせる形なので、音楽なしの映像は考えられません。」
「ツンさんは無声映画が好きですよね。自分の映画の中にも昔の無声映画を使ったりしてますよね。音楽に頼らず、映像だけで勝負するというのはどうですか?」
「………」
「余計な情報を捨てて、映像だけで勝負するのです。
「むつかしいです」
「シナリオさえしっかりしていれば、映像だけでお客さんを引っ張っていけると思います。」
「う〜ん、むつかしいです」
「ツンさんほどの映像の才能があれば大丈夫ですよ」
最初、1分程度の動画を依頼したのですが、1分では無理だというので、昔ツンさんが作った3分間の映画を提案しました。
「3分なら3秒のコマが60コマ。60コマあれば、ちょっとした物語ができると思います。」
「3分ですか…」
少し心が動いた気がしました。
「とりあえず絵コンテを描いてみませんか?」
「………」
「パン屋の宣伝動画の絵コンテです。」
「う〜ん」
「紙を用意しましょうか?」
「いや、それだったら絵コンテのテンプレートを探します」
という話になって、ようやくツンさんは前向きに動き始めたのでした。ここまで1時間かかりました。
ネットで自分の気に入ったテンプレートを探し出し、プリントアウトして絵を描き始めました。ものすごく集中して描いていました。そうして4時間ぐらいかけてできあがった絵コンテがこれ。まだ完成じゃなくて,まだ先があるそうですが、それでもなんだかすごい動画ができあがりそうです。コマの秒数が10分の1秒単位で書かれていて、やる気満々!と見ました。