人生に困難はつきものです。なんの困難さもない人生なんて、あり得ないし、困難さがあるから人生はおもしろいとも言えます。そして、その困難さにどう向き合うかで、人生の豊かさも変わってくるように思います。
みんなでワークショップの記録映画を撮りに来ている映像作家宮沢あけみさんの『ミラクルBaby』(彩流社刊)を読ませていただきました。
620グラムの超低出生体重児のそらちゃんと出会った宮沢さんの物語です。そらちゃんは宮沢さんが産んだ子どもですが、「出会った」としか言いようのない二人の関係が紡ぎ出す人生の豊かさがこの本にはいっぱい詰まっていました。「出会う」という新鮮な関係は、やはり宮沢さんのそらちゃんへの向き合い方だと思います。
出産した次の日、重症部屋の保育器のそらちゃんに会いに行きます。
「…口には大きな人工呼吸器の太い管が入り、それを支えるためにテープのバツがあごや頬まで伸びている。両手は点滴のため、ギブスのようなものをしてがんじがらめに包帯で巻かれ、足には普通よりは小さいサイズでも大きすぎるモニターがテープで固定されていた。」
そんなそらちゃんに
「そら、お母さん、来たよ」
と、声をかけます。そらちゃんはもぞもぞと動きました。宮沢さんは保育器の小さな窓から手を入れて、そらちゃんのぬくもりにふれます。
「そのぬくもりが語るそらのコトバを、私ははっきり感じ取った。そら、あなたは、母胎が保たないことを知って、自分から出てきてしまったんだね。おなかにいればなんの苦労もせずにできた呼吸を、こんな大げさな機械に頼って、痛い思いを全部ひっかぶって、自ら選んで生まれてきたんだね。強いね。エラいね。ゴメンね…そら。それでも、そんな思いをしてまで、お母さんのところに生まれてきてくれたんだね。ありがとう」
そらちゃんのおかげで宮沢さんは本当にすばらしいお母さんになれたんだと思いました。もちろんそれは、宮沢さんの人生の困難さへの向き合い方の結果ではあるのですが…。小さなそらちゃんが持っている大きな力を感じました。
一つだけ。「10日に一度帰ってくるか来ないかのオットが、家で一日中寝てられた日には、ブチ切れた。そらを2キログラムまで育ててくれた4ヶ月の入院は、私を母に育てたが、オットを父には育ててくれなかったようだ。」とありましたが、そのオットはでも、宮沢さんに「子どもをあやしといて」と頼まれ、「前から聞きたかったんだけれど、『あやす』ってどういうこと?」って聞いたというのですから、一生懸命で、まじめで、えらいお父さんだと思いました。なんといっても父は母ほど痛い思いをしないので、どうがんばっても、母には追いつけないのだと思います。
本の最後に「そらのおかげで、私たち家族も空を見上げて生きていける」とありましたが、心にしみることばでした。
ぜひ読んでみて下さい。
http://www.amazon.co.jp/ミラクルBaby-宮沢あけみ/dp/4779110386