ぷかぷか日記

パン屋が始まった頃の話−4

経営アドバイザーとの出会い

 ぷかぷかがスタートして4ヶ月くらいたった頃、「自分の息子(知的障がいのあるお子さんです)の働く場所を作りたい」と見学に来られた方がいました。一部上場会社の役員をやってこられた方で、いわば経営のプロです。

  ぷかぷかの理念から始まって、設立の過程、現在の経営状況まで正直に話しました。経営状況に関しては、プロから見れば、もう見てられない状態だったのだと思います。何の縁もない方でしたが、私の志に共感し、経営面でなんとかお手伝いしたい、と毎週のように経営のアドバイスに来られました。 

  「障がいのある人たちといっしょに生きていきたい」という思いのために、私は退職金をすべてつぎ込んでいました。「自分の家族に障がいのある子どもがいてもここまではなかなかできることではない」と、深く共感されたようでした。

  まず、「日々の資金繰り表を書くように」と勧められました。毎日どういうお金がどれくらい入ってきて、どういうお金がどれくらい出て行っているのか,という記録です。それまでは、ただ通帳の残高を見てるだけで、お金の出入りに関するこまかい記録を取っていませんでした。

  入ってくるお金はパン屋の売り上げ、外販、配達の売り上げ、カフェの売り上げなど。出ていくお金はパン材料費、カフェ材料費、給与手当、法定福利費、福利厚生費、旅費交通費、接待交通費、燃料費、通信費、水道光熱費、消耗品費、事務用品費、修繕費、保険料、会計事務所顧問料、地代家賃、会議費、雑費、借入金返済、仮払金などです。

  こういうものの一覧表を作って毎日お金の出し入れを記入していきました。

  家賃、保険料、法定福利、金融公庫返済、会計事務所顧問料など毎月決まって出て行くものについては、決まった数値を入れておきました。そうすると今どのくらいお金があって、月末にどれくらいお金が残りそうかが、だいたい見えてきました。

  月末は残高不足になることがわかっている時は、銀行から残高不足の電話が入る前に必要な分だけ資金を投入しておきました。行き当たりばったりで資金投入していた頃を思えば、同じ資金投入でも、気分的には格段に楽になりました。

  お金の出し入れを把握しておくことは、商売をやる上で当たり前のこと。でも、そんな基本的なことも私は知りませんでした。それをアドバイスする人もまわりにいませんでした。毎日資金繰り表を記入する中で、こういうことが商売をやる上で如何に大事なことか、身にしみてわかったのでした。

  お金の出し入れを把握するだけでは売り上げは増えません。売り上げを増やすにはどうすればいいのか、というところで、日々の売り上げの集計をきちんとることから始めました。毎日お店、外販先で、どんなパンがどれくらい売れているのか、といったデータを取り始めました。

  曜日によって、外販先によって売れるパンの量、種類が違うことがデータ上で見えるようになりました。そのデータを元にパンの仕込みの量を調整すると、売れ残りがずいぶん減り、売り上げが少しずつ伸びていきました。

  外販には適当にパンを持っていくのではなく、きちんと売れ筋を見極めて持っていきました。これによって売れ残りが大幅に減り、時折完売の時もありました。売り上げは毎日パンの厨房に張り出しました。これはスタッフのモチベーションを上げるのに大いに役立ちました。

  売れ残りを減らすには、生産量を減らすのが一番です。でも生産量を減らすと、当然売上げは伸びません。リスクを取りながら、どうやって売上げを伸ばすか、そこが勝負所であり、商売の面白いところであることが、だんだんわかってきました。毎日の売上げの発表は、そのおもしろさを更に加速してくれたように思います。

  カラーのチラシも作りました。これはお客さんの信用を得るのに大いに役立ちました。ホームページも全面的に作り直しました。それまでのホームページはどちらかといえばぷかぷかの理念的な面が前へ出てきて、パン屋をやっているという営業的な面がほとんどありませんでした。ホームページ作成ソフトを入れ替え、パンを買ってみたくなるような雰囲気に全面リニューアルしました。ホームページの作成は外注するお金もなかったので、全部自分でやりました。

  会計事務所からは毎月試算表が送られてきます。その表の意味が私にはほとんど理解できませんでした。「比較損益推移表」「貸借対照表」「試算表」などにびっしり数値が書き込んであるのですが、これがどういう意味を持つのかわからなかったのです。毎月経営アドバイザーに転送し、わかりやすい表に書き換えてもらいました。これによって1年のスパンでお金の動きがわかるようになりました。

  売り上げの推移などもわかるようになると、スタッフのモチベーションも上がってきます。年に数回スタッフ全員を対象に、この表を元に現在の経営状況をわかりやすく説明してもらいました。以前はパンが売れた、売れなかった、ぐらいしかわからなかったのですが、経営アドバイザーが関わるようになってからは、具体的な数値を元に経営的にうまくいっているのかどうかが手に取るようにわかってきました。先の見通しがわかると、職場への安心感も生まれます。そしてこの「経営」の感覚をスタッフ全員で共有できるようになったことが「ぷかぷか」を前に進める大きな力になったように思います。

  保護者の方たちにも、この数値表を元に経営状況を説明してもらいました。就労継続支援A型からB型に変わった時は、経営的な問題があったので、保護者としてはかなり不安があったと思います。数値を使って経営が安定しつつあることをわかりやすく説明してもらい、保護者の方たちは安心したようでした。

  そうして3年目、それまで赤字続きだった収支が、ほんのわずかですが、黒字に変わったのでした。もちろん、莫大な借金はまだまだ返し切れていませんが、単年度の収支は黒字に変わったのです。

  黒字に変わった要因としては、「ぷかぷかのパンがおいしい」と言ってくださるお客さんが徐々に増えてきたこと、利用者さんたちの魅力、お店の魅力に惹かれる人が増えてきたこと、「ぷかぷかしんぶん」「ホームページ」などによる情報発信でお店に来るお客さんが増えたこと、利用者さん、スタッフががんばったことなど、いろいろ考えられますが、やはり大きかったのは毎日こつこつとデータを取り、それを分析し、それに基づく適切な経営上のアドバイスをいただき、それを実践したことが大きかったように思います。 

  売り上げが増えると、当然のことながら利用者さん、スタッフのモチベーションがグ〜ンと上がりました。モチベーションが上がると職場全体が活気づきます。利用者さんたちも仕事がおもしろくなって、スタッフ共々笑顔で働く職場になりました。「経営がうまくいくということはこういうことなんだ」と、みんなの笑顔を見ながら思いました。

 

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