寝る前に涙をぽろっと流したかみさんに、大丈夫だよ、なんていいながら、その言葉の空疎な響きにげんなりした翌日、しばらくはうまいもの食えないだろうと、昼飯に2,600円もする鰻重を食べてから入院。医者の説明をかみさんと二人で聞きました。今手術すれば90%大丈夫だからという説明に、かみさんは少し安心したようでした。
手術まで10日ぐらいあって、その間にギンギンまつりのことであちこち狂ったように電話しました。テレフォンカードで数万円使いましたね。それくらいやらないとギンギンまつりの引き継ぎができなかったこともあるのですが、後から考えると、なんだかんだいいながらも、一人しんと静まりかえると、やっぱり揺れ動いてしまう自分があって、電話をかけまくることでなんとか自分を保っていたような気がします。
胃がんの手術をした人は周りに結構いて、今は胃がんで死ぬことはないから大丈夫だよ、と慰めてくれました。そうでなくては困るのですが、単なる気休めではなく、もう少し自分でもきちんと納得しようと、検査の合間を縫って本屋に行き、ガンについての本を買いました。知識としてではなく、自分の中にガンを抱えながら読むと、文字の一つ一つが体にしんしんと痛いほどしみました。
手術の2日前、外科の医者から手術についての説明を聞きました。胃カメラの写真見せながら丁寧に説明してくれました。ここに潰瘍があって、そこの細胞を顕微鏡で調べたところ、非常にカオの悪い細胞が見つかったので、手術で切り取ります、という説明でした。
「そのカオの悪い細胞というのはガンのことではないんですか?」
と聞いたところ、
「ええ、まあ、そんなふうに言う人もいます」
と、ずいぶん苦しそうな答え。
あとでかみさんに聞いたところ、家族への説明でははっきりガンといったそうで、その時、
「私は患者さんにははっきり言わないことにしているんです」
ということも言ったそうです。
最初に
「あなたはガンにかかってます」
とはっきり言った内科の医者は、
「普通はこんなふうに患者さんにはっきり言わないのですが、患者さんが若くて、ガンがまだ初期の段階では、はっきり言わないと入院なんかしてこないでしょ」
なんてあとで笑いながら言ってましたが、それもそうだと思いました。