書棚を整理していたら、昔ガンにかかったときの話が出てきました。20年ほど前の話です。
「あの、実はですね、精密検査の結果、悪性のガン細胞が見つかりました。」
1月末、胃の精密検査の結果を聞きに行ったとき、医者が言いにくそうに言いました。
「あ、でもまだ初期ですから、今手術すればほとんど助かります。もう、ベッドは押さえてありますから、すぐに入院して下さい」
ガンです、と急にいわれても、どこかものすごく苦しいとか、痛いとかいった自覚症状が全くないので、「助かる」などといわれても、ほとんどリアリティがありません。(だいたいその半年前には「人生40周年記念イベント」と称して40歳になった記念に自転車かついでパキスタンまで行き、インダス川の源流を700キロも走っていて、元気いっぱいでした。)「助かる」よりも、胃を三分の二も取ってしまうなんてもったいないという思いの方が強いくらいでした。何よりもその時準備していた「ギンギンまつり」ができるのだろうかということがいちばん気がかりでした。「ギンギンまつり」は障がいのある人たちのさまざまな表現を軸にしながら、やってきた人たちみんながギンギン元気になるようなまつりで、それをを3月4日に予定していて、私はその言い出しっぺでした。
「3月4日に大事な用があるので、3月5日に入院するというのはだめですか」「だめです。ガンなんですよ。どんどん進行します。今手術しないと大変なことになります。それでもいいのですか」「いや、そういうわけじゃないんですが、えーと、わかりました、じゃ、一日だけ猶予を下さい。明日には必ず入院します。」「必ず来ますね」といかにも信用してない感じで念を押されました。
いきなり「ガンです」なんていわれたせいか、自分の中にその実感がなくても、何となくからだがほてり、気分もコーフン気味でした。帰り道、ガンという病気の怖さと、その怖い病気になることで、おそらくめちゃくちゃにひっくり返ってしまうであろう私の日常生活を考えると、頭の中がごちゃごちゃになって、何から手をつけていいのかわからないくらい混乱していました。