養護学校に勤めていた頃の話です。
つう君はよく通る声で一人でおしゃべりします。当時、まだ若い工藤静香が大好きでした。なにかにつけ、工藤静香が登場します。学校であれば、別にどうということはないのですが、バスの中でこんなことを言ったこともありました。
「 くどうしずか、パンツ丸見え。いやらしいこといわない!」
いやらしいこといわない、と付け加えるあたりが、いかにもつう君らしく、笑いが倍になるのですが、それでも、内容的にはちょっと焦ってしまうものでした。
そんなつう君を引き連れて箱根の「ひと塾」でワークショップをやったことがあります。相変わらずわめいたりひっくり返ったりでなかなか大変なワークショップでしたが、それでも彼は参加者の中では圧倒的に人気がありました。
みんなで作った芝居のリハーサルがありました。ところがちょうどその時間につう君の好きなテレビ番組があり、「テレビみたい」「でも、がまんする」「テレビみたい!」「今日はがまんする!」と一人でぶつぶつ言ってました。つう君の気持ちの揺れがそのまま出ていて、楽しい一人漫才を見ているようでした。揺れの巾がどんどん大きくなって「テレビが、見たい!!」「でも、がまんする!!」「テレビが、み、た、い!!!」「う〜、でも、が、ま、ん、する〜!!!」と、このくらいになると、もう顔が苦悩にゆがんで、畳の上をのたうち回っていました。そのうち、とうとう限界を超えたみたいで、「ああ、もう、ダメ!!」と大声で叫んで、ダーッとすごい勢いで部屋を飛び出していきました。
結局、つう君抜きのリハーサルになりましたが、リハーサルの終わった頃、見たかったテレビを見終わったつう君が、すっきりした顔で帰ってきました。自分の気持ちにこんなにも正直な人はそういないよな、と思いました。
メイクをして本番。つう君は閻魔大王の役で、芝居の最後を締める主役です。その主役が肝心なところで、舞台の真ん中でわーわー叫びながらひっくり返ってしまい、ハラハラしましたが、それはそれで迫力ある閻魔大王になってしまうあたりが、つう君のすばらしい才能だと思いました。
何日か後に、ワークショップの参加者の一人から電話がありました。
「今度東京でワークショップやります。ぜひつう君はじめ、養護学校の生徒たちを連れてきて下さい。今までいろんなワークショップやりましたが、彼らといっしょにやったワークショップがいちばんおもしろいと思いました。ぜひ来て下さい」
ワークショップをやる時間が夜なので、
「彼らを誘っていくのは無理です」
といったのですが、彼らを送り迎えする車を出してもいい、とまでいいました。
彼らといっしょにワークショップをやって、そこまで惚れ込んだ人が現れたことに、感動してしまいました。ワークショップの場というのは、つう君はじめ、養護学校の生徒たちの魅力が、日常の世界よりも、もっとよく感じ取れるのだろうと思います。
来年はぜひそんな楽しいワークショップをやってみたいと思っています。ホームページにお知らせを載せますので、時々チェックして下さい。ホームページは「ぷかぷかパン」→「検索」