ぷかぷかを始める前、空き店舗活性化事業に応募し、なんと650万円もの大金をゲットしたことがあります。その時の話です。
たまたまビジネスプラン作成のセミナーを受けたばかりだったので、腕試しのつもりでエントリーすることにしました。かなり難しいことはわかっていましたが、何もしなければ何も起こらないし、アクションを起こせば、たとえ1%でも前へ進む可能性があります。
説明会の会場には100人近い方が詰めかけ、圧倒される雰囲気でした。でも、ここで引いてしまったら全く前へ進まないので、教わったばかりのビジネスプランを書いて締め切り当日に投函しました。
説明会に押しかけてきた人数から考えて、あまり期待していませんでした。でも、しばらくして書類審査に通ったからヒアリングに来るように連絡がありました。自分の書いたビジネスプランが通ったことに、ちょっと驚きました。
ヒアリングでは、空き店舗を使って何をやろうとしているのか、採算は取れるのか、商店街の活性化にどのようにつながるのか、をかなり細かく聞かれました。採算が取れるのかどうかについては、やってみなきゃわからないことが多すぎて、うまく説明できませんでした。
でも商店街の活性化、ということについては、パン教室、運動会、ワークシップ、お祭りなどの楽しいイベントをいろいろ提案しました。「ぷかぷかはなんだか楽しいお店だ」というイメージを地域に定着させたいという思いを熱く語ったのです。
その熱い語りが聞いたのか、このヒアリングもパスし、最終審査のプレゼンテーションに来るように連絡がありました。
今でこそプレゼンテーションはパワーポイントを使いますが、当時はパワーポイントも知らなくて、だらだらと言葉で説明するだけでした。ただただ思いを込めて説明することしか私にはできませんでした。
以下、その時の原稿です。
「高崎といいます。街の中に障がいのある人たちと一緒に働くパン屋を作ろうと思っています。彼らの中にはうまくおしゃべりができなかったり、字が読めなかったり、簡単な足し算もできない人もいます。でも、そんなことをはるかに超えた人としての魅力を彼らは持っています。
私は養護学校で30年彼らとつきあってきました。自分の中にある人間のイメージを大きくはみ出す人も多く、初めのころは戸惑うことばかりでした。
でも、いろいろつきあってみると、私たちにはない,なんともいえない魅力をたくさん持っていて、いつからか、この人たちとはずっと一緒に生きていきたいと思うようになりました。一緒に生きていった方が「絶対に得!」という感じです。彼らと一緒にいると毎日が本当に楽しいです。養護学校の教員になるまで、こんな楽しい日々が来るとは思ってもみませんでした。
昔、私がまだ学生の頃、胎児性水俣病の子どもを抱きながら、「この子は宝子ばい」と言っていたお母さんがいました。でも、その「宝子」の意味がどうしてもわかりませんでした。重い障がいをもった子が、どうして「宝子」なのか、わからなかったのです。
でも、障がいのある子どもたちと30年付き合ってきた今、「宝子」という言葉に込めたお母さんの思いが痛いほどわかります。ぎすぎすした息苦しい今の世の中にあって、ただそこにいるだけで心安らぐような雰囲気を作ってくれる彼らの存在は、やはり「宝」といっていい存在だと思うのです。彼らがそばにいるおかげで、私たちは人としてそこに立つことができるのだと思います。
かつてあったおおらかさがなくなり、どんどん息苦しくなっていく今の社会には、そういう「宝」こそが必要なんじゃないか、私はそんな風に思います。
街の人たちに、そんな「宝」のような存在に出会ってほしい。彼らと一緒に街の中でパン屋を始める理由のいちばん根っこにはそんな思いがあります。
とはいうものの、彼らと一緒に働くことは、生産性の面からみると、極めて厳しいものがあります。彼ら抜きで働いた方が、ずっと効率はいいでしょう。でも、効率のみを追い続ける社会はお互いがとてもしんどくなります。世の中に一つくらいは、効率のよさを追わないところがあってもいいのではないでしょうか。
効率をこえる価値を、彼らといっしょに働くことの中に見つけることができれば、彼らにとっても私たちにとっても、大きな希望になります。彼らといっしょに楽しく働きながらも、パン屋を回していけるだけのお金を稼ぐ、といったことがどこまでできるのか、効率を超える価値は見つけられるのか、ぷかぷかは壮大な実験の場でもあるような気がしています…」
プレゼンテーションの始まる前に審査員に自分で焼いたパンを食べてもらおうと前日にオレンジブレッド(無農薬の甘夏を刻んで作ったオレンジピールを練り込んだパン)を焼いておきました。ところが当日、その肝心なパンを忘れたことに駅で気がつき、あわてて家まで取りに帰るというドジ。
プレゼンテーションの始まりの時間に遅れてしまい、電車で会場に向かっているときに担当者から「今、どこにいますか?」という連絡が携帯に入る始末。
それでもはぁはぁ息を切らしながらパンを配ると、「あ、おいしいじゃん!」という声があちこちから上がりました。それを皮切りにパンに入れたオレンジピールやシンプルな材料の話をしました。
ビジネスプランの話は、どうしてハンディのある人たちといっしょに仕事をするのかといった話につい力が入り、「あと3分です」の声に慌ててビジネスの話をしましたが、なんとも中途半端。
そのシロウトさがよかったのか、最初に配ったパンが効いたのか、とにかく後日、奇跡といっていい合格の通知が届いたのでした。
650万円ゲット!
何事もやってみなきゃわからないものだと、つくづく思いました。
後日担当者にどうしてぷかぷかが合格したのか聞いたことがあります。
「普通のパン屋にはない広がりとおもしろさが期待できそうでした。商店街の活性化には、そういった広がり、おもしろさが大切です。」
なるほどな、と思いました。そういえば、最初の説明会で、「おもしろい企画」「元気な企画」がいい、とあったので、その通りになった気がします。
横浜市コミュニティビジネス課の人たちの将来を見通す目の確かさを、今あらためて思います。経営セミナーを受講したとは言え、プロから見れば、経営的には頼りないプランだったと思います。それでも、その頼りなさを超えるおもしろさ、広がりをぷかぷかのプランに見いだし、それに650万円もの資金を「賭けた」担当者の決断に、感謝、感謝です。