ミーちゃんはヒロ君が好きです。外販の帰り、駅で二人を降ろすと、ミーちゃんは歩きながらヒロ君の手を握ったり、肩に腕を回したり、もう、好きで好きでしょうがない、といった感じです。駅前の喫茶店に寄って、お茶でも飲んでいくのでしょう。
ところがヒロ君は典型的な自閉症で、計算などはすばらしく得意ですが、人とのおつきあいがあまりうまくありません。場の雰囲気を感じ取るとか、相手の気持ちを考える、といったことは、かなり難しいです。同じことを繰り返しいうと、相手がうんざりする、といったことは全く想像できないようです。
ヒロ君に「ミーちゃんのこと、好き?」と聞くと、「好き」といいます。はにかむわけでもなく、「好き」と、にこりともせずにいいます。「本当か?」と思ってしまうくらい気持ちが全くこもっていません。
毎週金曜日は仕事が終わってから、駅の近くのマクドナルドでデートをするといいます。二人はどんな話をするんだろう、といつも思います。職場で給食を食べる様子から想像すると、ヒロ君はコーヒーをがぶがぶ飲み、ハンバーガーをがつがつ食べ、「ごちそうさま」といって、さっさと席を立ち、脇目もふらずに帰ってしまう、といった感じです。ミーちゃんと楽しそうにお話しする、といった姿は、なかなか想像できません。
それでもミーちゃんはヒロ君が大好きだ。仕事から解放され、寄り添って歩く姿を見ると、「好き」という気持ちの前では「自閉症」等といったことは、どうでもいいのかも知れません。